ヒット・パレード
「マスター、私そろそろ帰ります」
いくら飲んでも、少しも気分は良くならない。ただ、ただ酔いだけが回るだけである。
森脇が今もなお、自分自身を責め続けている。などという、切ない話をマスターから聞けば、陽子の憂鬱は益々深くなるばかりだった。
「それじゃ、今タクシーを呼ぶから。その間、水でも飲んで少し酔いを冷ましておくといいよ」
そう言って、水を注いだ新しいグラスを陽子に差し出すと、マスターは穏やかに微笑んだ。
十五分程が経過し、やがてタクシーが到着すると、陽子はマスターに礼を言い、カウンターの椅子から立ち上がった。その瞬間、微かな目眩いを覚え、慌ててカウンターに手を添える。
「おいおい、大丈夫かい?ヨーコさん」
「大丈夫ですよ。急に立ち上がったから……」
そうは言うものの、あまり大丈夫そうには見えなかった。店の出口へ歩き出そうとしている陽子の足取りは、どう見ても千鳥足である。
マスターが、慌てて陽子の傍に駆け寄り、タクシーの後部座席まで彼女の肩を支えた。
「それじゃ、気をつけて帰ってねヨーコさん」
「はい。お休みなさい……」
虚ろな顔でそう答える陽子を、マスターは心配そうな表情で、タクシーが走り去り、その姿が見えなくなるまで見送っていた。
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