ヒット・パレード



5月12日………


「そんな事があったとはな………」


テレビNET局内のデスクで陽子からの報告を受けた本田は、メディアでは謎とされていたトリケラトプスの解散劇の真相に、かなりの衝撃を受けていた。


とりわけ、前島の自殺についてはトリケラトプスのファンとして、個人的にもショックだったようだ。


「惜しいギタリストを失った。彼のギターをもう聴く事が出来ないと思うと、本当に残念だ」


それでも、無事にトリケラトプスとの出演交渉に成功した陽子に労いの言葉を送る。


「陽子、よくやってくれた。お手柄だな」


その言葉は本田の本心だった。相田局長との約束により、あと二週間トリケラトプスとの出演交渉が成立しなければ、本田の企画した24時間ライブは内容自体を大幅に変更させられるところだったのだ。


「エヘヘ、私もお役に立てて嬉しいです」


あまり褒められる事の無い本田に、珍しくそんな言葉をもらい少し照れながらも得意顔の陽子。


ただ、肝心な自身の活躍の詳細については、記憶が飛んでいる為に全く覚えていないのだが。


「とにかく、俺も一度森脇さんに会う必要があるな………陽子、彼とは連絡が取れるようにしてあるのか?」


本田はプロデューサーとして、森脇とはライブ内容について話を詰めなければならない。それに、自殺した前島の代役をどうするのか?その大きな問題についても森脇と相談する必要がある。


「ええ、森脇さんとはちゃんと連絡先を交換しています」


「そうか、じゃあ先方の都合がよければ明日の夜にでもレスポールで会うとするか……」


ほんの数秒考えてから、本田は独り言のようにそう呟いた。あの店ならば本田、森脇双方にとっても顔馴染みの店である。話をするには丁度いい。


ふと気が付くと、陽子が何かをねだるような目で本田をじっと見ている。


「なんだ、お前もついて来るのか?」


「エヘヘ、バレました?」


つい一昨日、レスポールで記憶が飛ぶほど飲んだというのに、陽子もたいがいタフな女である。さすがは業界に勤めるキャリアウーマンというところか。



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