ヒット・パレード



8月17日………



この頃になると既にトリケラトプスのライブ出演は、国内の様々なメディアによって取り上げられる様になっていた。


実は、局を挙げてのこの特別企画番組を成功させる為に、本田は随分前からあらゆるコネクションを使って仕掛けを打っていたのである。


七月から始まる新ドラマの主題歌、大手ビール会社の夏バージョンの新CM、都市部で行われる様々なイベント等でトリケラトプスの曲が一斉に流され、また、音楽系雑誌でも特集が組まれていた。これらは全て本田が事前に計算し、根回しをしておいた仕掛けだった。


その甲斐あって、トリケラトプスは当時のファンのみならず28年前のリアルタイムを知らぬ十代、二十代の層にも認知され、再びブレイクを果たした。


「全く、失敗したよ。テレビNETのライブチケット、プレミアになってるらしいぜ。もっと早く申込んどきゃよかった」


「特にトリケラトプス出演時間帯のやつは、値がつり上がってるって話だ。アイツら最近、若い奴らにも人気が出ちまったからなぁ……」


新橋の焼き鳥屋で、ビール片手に話すサラリーマンの間でも、そんな話題が持ちきりだった。


「トリケラトプスかぁ~懐かしいな。俺ら青春真っ只中の唄だもんな」


「全くだよ。二十歳やそこらのガキとは、思い入れが違うっつーのっ!」


四十代後半のこのサラリーマンにとって、トリケラトプスの音楽は古き良き青春時代のシンボルであった。酒を飲みながら、このバンドの事を熱く語る中年は彼等ばかりでは無い。


「ところで、ギターは誰が弾くんだろね?リードギターの前島 晃は、病死したんだろ?」


「それだよ、それっ!トリケラトプスの解散は謎に包まれていたんだけど、結局それが原因だったみたいだな。急性の心筋梗塞らしかったそうだけど……代わりのギタリストは、当日のライブまで秘密らしい」


「サプライズって訳か………しかし、俺としてはやっぱり、前島のギターじゃないと今ひとつしっくり来ないんだよなぁ」


「でも、まあ復活してくれただけでも嬉しいよ、俺は。あ~~チケット欲しかったなぁ~~」


このサラリーマンの話にもあったように、前島の本当の死因は本田によって隠蔽され、世間には急性の心筋梗塞と発表された。そして、トリケラトプスのギターは、ライブ当日まで明らかにされてはいなかった。


これによって、《トリケラトプスのギターは果たして誰が弾くのか?》については、様々な憶測が巡り結果、ライブへの世間の注目はますます高くなっていったのだ。



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