ヒット・パレード
演歌界の大御所、大俵 平八郎のあまり見る事の出来ない出川哲朗ばりのリアクションに、客席のあちこちから笑いが洩れる。
ただ、番組スタッフを含め会場の殆んどの者がこの大俵の様子を傍観している中、ただ一人、この事態に顔面蒼白となっている男がいた。
大俵 平八郎の専属マネージャー、木村である。
「大変だっ!早くなんとかしないと、これはエライ事になるぞ!」
木村はこの状況を見て直感した………このままでは大変な事になる。
もし木村がそれをそのまま放置し大俵の怒りを買うような事にでもなれば、木村は即解雇され明日からハローワークに通うハメになる事もやぶさかでは無い。
「とにかくプロデューサーに言って、あの神輿を止めてもらわなければ!」
木村は慌ててステージ脇にいた本田のもとへと駆けつけ、大俵のステージを中断するよう、本田に直談判した。
「ちょっとアンタ達、なに呑気に見ているんですか!誰かスタッフにあの神輿を止めさせて下さい!」
しかし、木村にそう言われるも、本田がこんなに愉快な出来事をそう簡単に終らせてしまう訳が無い。
「まあ、まあ木村さん、何せ生放送中ですから。
スタッフがぞろぞろとステージに出ていくのは番組的にもあまりよろしくない」
本田は適当な理由を付けて木村を追い払おうとするが、木村はそれでは引き下がらなかった。
「そんな事を言っている場合ですか!これは緊急事態ですよ!」
「そんな、大袈裟ですよ木村さん。
とりあえず、この曲が終わるまで待ってみましょう、もしかしたら神輿の暴走も収まるかも………」
「待てません!今すぐあの神輿を止めて下さい!でないと大変な事になる」
木村は恐れていた。このままでは、大変な事になると………
「ですから、この曲が終わったら……あとほんの三~四分ですよ」
「そんな事を言って、落ちたらどうするんですか!」
「大丈夫ですよ。大俵さん、両手であんなにしっかり掴まっているじゃないですか。そう簡単には……」
現状はそこまで危険では無いと、穏やかに木村を宥める本田。
しかし、そもそも本田と木村では認識する《危険》の意味がまるで違っていたのだ。
「落ちるのは先生じゃありません!」
「えっ?………木村さん、それはどういう意味ですか?」
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