ヒット・パレード



「さて……しかし、困った事になったな」


黒田がスタッフに連れられて楽屋を出て行った後、本田は腕時計の時間を見ながら眉間に皺を寄せ呟いた。


まさか、こんなかたちで黒田の出演がポシャるとは………


過ぎた事は仕方が無い。今更、森脇の暴力沙汰についてとやかく言うつもりは無いが、それにしても事態は緊急を要する。ウニコーンのステージは終了し、トリケラトプスの出番まではあと10分を切っていた。


「うーむ…代わりのギタリストか………」


武藤が腕組みをしながら唸る。もはや、唸るしか無いといった表情だ。


すると、皆と同じく俯いて思案に暮れていた陽子が、何か思い出したように顔を上げ言った。


「あっ、そう言えば観覧席にC,z の松本さんと布袋屋さんが居た筈です!今から頼めば、もしかしたら飛び入りで出演してくれるかも!」


この危機的状況を乗り切る為の、苦肉の策。何としてもトリケラトプスのステージを成功させようと陽子も必死だった。


「成る程、あの二人ならこの急場を凌げるかもしれないな」


陽子の提案に頷く本田。二人とも今の日本を代表するギタリストに数えられる二人である。打ち合わせ無しのぶっつけ本番のステージも、恐らく彼等であれば、持ち前の音楽センスでやり遂げてくれるであろう。


問題は、こんな突然の出演要請を彼等のどちらかが受けてくれるかどうかだが、話をしてみる価値はある。と言うより、それ以外の選択肢は今の本田には考えつかなかった。


「よし、ダメもとで頼んでみよう。交渉は俺が直接する!」


そう言うなり、急いで楽屋をあとにしようとした本田。


ところが、その背中越しに森脇の呼び止める声が聴こえた。


「ちょっと待ってくれ、本田さん」


「何です、あまり時間が無いんだ。あなた達もそろそろ準備の方を………」


「黒田の代役は要らない!」


「なんだって?」


森脇の思いがけない申し出に、本田は驚いた表情で彼の顔を見た。


「それはどういう意味です?まさか、今更出演を辞退するとか言うんじゃないでしょうね?」


何しろ前島を刺したのが黒田と知り、その黒田をボコボコに殴りつけたその直後である。森脇がそんな心理状態に陥る事も、考えられない事では無かった。



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