ヒット・パレード



「もうやめてっ!これ以上続けたら死んでしまうわ!」


なんとか森脇を止めようと、陽子が背中から森脇にしがみつく。


武藤と森田も、さすがに見かねたのか森脇を止めに入った。


「おい、もう止めとけ森脇!」


「うるせえ離せっ!この野郎ぶっ殺してやる!」


「お前、拳が血だらけじゃねえか!こんな奴ぶっ殺す価値も無えだろ!」


武藤と森田に両腕を掴まれ、もがく森脇。強引に引き離されて椅子に座らされると、漸くしてようやく落ち着きを取り戻していった。


ちょうどその時、楽屋にやって来た本田は、その惨状を目のあたりにして驚きの声を上げた。


「これはいったい………何があったんです!」


「前島を刺した奴、この黒田だったんだよ」


武藤の答えを聞いて、本田は今しがたこの楽屋で起こった全てを理解した。


そして、顔面を血だらけにして床に倒れている黒田に視線を移す。


トリケラトプスがデビューし、日本中のロックファンを虜にしていたその頃、黒田は《バンデット》という名のバンドのリードギターとして活動していた。しかし、一部のギターフリークからの高評価は受けながらも、バンドとして《バンデット》の世間一般からの人気はあまり芳しいものでは無かった。


───『大体、デビューした時から気に入らなかったんだ。
何が《天才ロックバンド─トリケラトプス》だ。世間の奴らは買いかぶり過ぎてるんだよ!どいつもこいつもトリケラトプス、トリケラトプスって……
たいがい、目障りなんだよ、お前らは!』───


ギターテクニックに絶対的な自信がありながらも結果が伴わない事に対する苛立ちがトリケラトプスへの歪んだ嫉妬心を抱き、あのような凶行に及んだのだろう。自信過剰で自己中心的な黒田なら、やりそうな愚行だった。


「とにかく、黒田さんはスタッフに病院まで送らせます。さすがにこの怪我でステージには上げられない」


本田は無線で手の空いているスタッフを二名呼び寄せ、黒田の介抱を命じた。そのスタッフに支えられ、ふらつく足取りで立ち上がった黒田は、自分の武道館ライブの機会を潰された怒りを抑えられずに森脇を睨みつける。


「森脇覚えてろ!テメエの事は絶対、訴えてやるからなっ!」


そう叫び、楽屋を出て行こうとする黒田の耳もとで、今度は本田が囁く。


「黒田さん、騒ぎが大きくなって困るのはアンタの方じゃ無いのか?
28年前アンタがした事………刑法じゃ時効かもしれないが、それが公になればアンタはもうこの世界では生きていけなくなるだろう」


黒田を殴った森脇も決して褒められたものでは無いが、あの出来事があってからの森脇の苦しみを知っている本田には、どうしても黒田の味方になる心境になれないのは仕方の無い事だった。



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