ヒット・パレード
黒田の件、そして今の停電といい、まるで見えない何かに運命を弄ばれているような、そんな気さえしてくる。
「五分~十分か………」
それで、森脇の再起を懸けたこのトリケラトプスのステージは取りやめとなる。番組では急遽別の企画を立ち上げ、残りの時間を消化する方向へと動き出す事となろう。
視覚を奪われた暗闇の中では、時間の感覚が鈍化する。一分がとてつもない長い時間に感じられた。
森脇はジャケットの胸の内ポケットに手を入れ、前島から貰ったジッポを力強く握り締めた。
(晃………これはお前の意思なのか?
こんなハンパなステージなら、演らない方がマシだって事なのかよ?)
心の中でそう問いかける。今のこの状況は、これからやろうとしている、まるで丁半博打のようなステージに対しての前島からのメッセージなのではないか?森脇にはそんな気がして仕方が無かった。
客席の方では、拡声器を持ったスタッフがこの状況を声高に説明して回る声が聴こえた。
『只今、落雷による停電の為会場の電源が全てダウンしております!ご来場の皆様にはご迷惑をおかけして申し訳ございません!今暫くそのままの状態でお待ち下さい!危険ですので席から立ち上がらないようお願いします!』
「ふざけんな!俺はトリケラトプスを観に来たんだ!」
「いつ復旧するんだよ!早くはじめろ!」
会場のあちらこちらから、不満を抱えた観客からのヤジが飛ぶ。これからトリケラトプス登場というこのタイミングでの停電が、もどかしくて仕方が無いといった様子だ。
『落ち着いて下さい!只今、復旧の見込みを問い合わせています!今暫くお待ち下さい!』
そんな観客席でのやり取りを聴いて、本田は渋い表情で唇を噛んだ。
「最悪だ。トリケラトプスのステージが中止になれば、観客は暴動でも起こしそうな雰囲気だな………」
そう呟き、スマホの待ち受けで現在の時刻を確認すると、停電が始まってからおよそ三分程が経過していた。
悔しいが、もうそろそろ決断しなければならない。暗闇での観客のストレス、そしてスタジオで代わりに放送する内容の検討時間を考えると、これ以上は引き延ばす事は出来ない。
本田は取り出したそのスマホで、登録してある局の電話番号を出し、それを耳に当てた。
と、その時………
「本田さん!」
それは、陽子の声だった。
本田が声のする方向を見ると、暗闇の中、携帯用のペンライトらしい光がこちらへ近付いてくるのが確認出来た。
「たった今、確認出来ました!停電はもうまもなく解除されるそうです!」
そう叫ぶ、陽子の嬉しそうな声が聴こえた。
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