ヒット・パレード
祐哉からギターを受け取った森脇は、そのストラップを自分の肩へと掛けた。
もう、三十年もギターを手にしていない森脇だったが、その佇まいはさすがにサマになっている。
陽子はその森脇の姿に、いつかYouTubeで観たトリケラトプスのライブでのギターを掻き鳴らしながらシャウトする、かつての森脇 勇司の勇姿を重ね合わせていた。
Zipのメンバー、陽子、そしてマスターが注視する中、森脇はおもむろにギターを弾き始める。
そのギター演奏に、Zipのメンバーは思わず「あっ!」と驚きの声を上げた。森脇が即興で弾いたその曲が、ついさっきまで彼等が演奏していたZipのオリジナル曲だったからである。
「マジかよ……」
楽譜も無しにたった一度聴いただけの曲を、涼しい顔で弾いている森脇を、ギタリストの祐哉は口をぽかんと開けたまま、まるで宇宙人にでも遭遇したような顔で見つめていた。
何フレーズかを弾いたところで、森脇が演奏を止め、その祐哉に向かって問いかける。
「分かったか?」
「は?」
なんとも気の無い祐哉の返事に、森脇は「聴いてなかったのかよ?」と言いたげに眉根を寄せて見せる。
「は?じゃねぇだろ!このギター、二弦のチューニングがズレてんだろっての!」
「えっ?」
「なんだよ……聴いても分かんねぇのか………ほらっ、自分で確かめてみろよ!」
森脇からギターを返してもらい、祐哉が注意深くその弦を一本、一本爪弾いてみると、確かに森脇の言う通り二弦のチューニングが正規の音よりわずかに低い。
「スゲ……ホントだよ………」
森脇を見るZipメンバーの目からは、既に敵対の色は失われていた。それよりも、この目の前にいるとんでもない音楽センスを持つ人間が一体誰なのか?という好奇心に満ちた眼差しへと、完全に移り変わっていた。
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