ホルケウ~暗く甘い秘密~
その頃りこはというと、何度も腕時計で時間を確認しながら、必死で足を動かしていた。

少し約束の時間に遅れるかもしれない。

校門を出て、本格的に走ろうとしたりこだが、滑らかなベルベットのような、しかしよく響く声がりこをひき止めた。


「りこさん!」


まさか、と口の中で呟く。
振り返れば、満面の笑みを浮かべた玲が、校門の少し手前にいた。


「学校は?」

「こっちもテスト期間だから、そっちより早く終わった」

「部活は?」

「引退したよ。中体連で負けたから」

「で、なんでついてきてるの?」

「彼氏だから」


会話が始まってからというもの、りこの視線はまったく玲には向けられなかった。

チラチラと腕時計を見てはせかせかと足を動かすりこに、玲は微笑みながらついていく。


「彼氏だからって、意味わかんない。なにその謎の理由。私、今から友達と会うんだからついてこないでよね」

「じゃ、帰る前に連絡して。送るから」


(な、なんなのこの些細だけどめっちゃ恋人らしいやりとりは!)


そう意識した途端、りこは耳まで真っ赤になった。
もちろん玲はそれを見逃すはずがなく、赤くなったりこをからかう。


「ふーん、りこさんのときめくツボはそこか。あからさまなセリフより、そういうのが好みなんだ?俺としてはちょっと物足りないかな」

「う、うるさい!面白がるな!」

「もっと刺激的なこと言ったらどうなるかな」


小走りだったりこの肩を引き寄せ、耳元で甘く囁く。

ついでに耳たぶを軽く食めば、なにかを我慢するようにりこの体が震えた。

羞恥のあまり絶句したりこだが、すぐさま玲の右腕を振り払う。


「偽物彼氏のくせに調子に乗りすぎ!ベタベタしないで!」


きつい声音(だと自分では思っている)で怒鳴り、りこは振り向くことなく友人との待ち合わせ場所に走った。

背後から聞こえる玲のクスクス笑いに、腸が煮えくり返る思いだったが、いつまでも玲のことを考えるのが癪だったため、意地でも忘れようとした。
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