ホルケウ~暗く甘い秘密~
「あんたには死んでもらうよ。春山りこ。ただの人間のくせに、色々知りすぎたからね……」
不意に首に手を伸ばされる。
見かけはただの子供でも、人狼の力強さがどれ程のものなのか、玲を通して知っていたりこは、それだけで顔が蒼くなった。
まるで慈しむように首の皮膚をなぞる指先。
少年は恍惚とした表情で独白する。
「ああ、殺すなんてもったいない。こんな手触りの良い肌にはなかなか巡り会えないのに……。青く未熟でも、こんなに肉感的な肢体を持つ女は稀なのに。シフラに内緒で飼いたいなぁ」
(なに、この子。おかしいんじゃないの!?)
あまりにも艶かしい物言いと、その少年の外見とのギャップに、りこの本能が警鐘を鳴らす。
普通の子供ではない。
人狼だからとかではなく、何かが根本的におかしい。
その何かとは、少年の年齢に見合わない性的に熟したような雰囲気だ。
ますます恐怖が募るりこだが、まだ希望は捨てていなかった。
同じ班の誰かが、自分がどこにもいないことに気づいてくれるかもしれない。
「うーん、でもシフラに怒られるのは嫌だな。やっぱり殺そう。でも安心して。すぐには殺さないから」
少年は無邪気に笑いながら、クルクルとナイフを弄ぶ。
そしてピタリ、とりこの喉に突き立てた。
スッと流れるような動作で、首筋の皮膚を薄く切る。
ジワジワと湧き出る鮮血に、少年は顔を輝かせた。
帰宅してテーブルの上にあった菓子を見つけた子供のような、そんな反応だ。
「なにこれ。予想ぶっちぎって美味しそう。ちょっと殺す意志が揺らぎそうだよ」
首を掴み、手繰りよせ、少年は手ずから傷をつけたそこに舌を這わせた。
ひりついた痛みと、ねっとりとした舌の動きの気持ち悪さに、思わずりこは悲鳴をあげそうになった。
それに気づいた少年は、首を掴む手に力をいれる。
息苦しさに目を潤ませながら、りこは心の中で助けを求めた。
(誰か!誰か助けて!!)
咄嗟に頭に玲の顔が浮かぶ。
何も知らない彼は、今は学校にいるはずだ。
叫びたい衝動を堪え、うつむいていたりこは、少年の変化に気づかなかった。
いつの間にか首から手が離れていることに気づいたりこは、怪訝な表情で顔をあげた。