ホルケウ~暗く甘い秘密~
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春山家の車庫から車が出ているのに気づき、玲はほとんど条件反射で窓際まで近づいた。

車に乗っているのは、りこの祖父である政宗と顔の半分を腫れぼったくしたりこだ。

痛々しいその形相に、思わず顔をしかめてしまう。


(昨日、俺がついていればあんな怪我はしなかったのに)


公衆電話からケータイに電話がかかってきた時、玲は自宅にいた。

なんとなく気分が優れなくて、父親の目を盗んで学校をサボり、ダラダラと過ごしていたのだ。


(何やってんだ、俺……)


油断していた。

いつモーションをかけられてもおかしくない状況下で、りこから離れていた。

守ると約束したにも関わらず。


「あー、くそッ」


仰向けにベッドに倒れこみ、首だけ動かして現在時刻を確認する。まだ7時35分だ。

いつもなら起きてすらいない。

スクールバッグに教科書やルーズリーフは詰めてあるが、正直学校に行きたい気分ではない。

今日もサボろうか迷いはじめたその時だった。

軽快な音を立て、スマホが震えた。

起き上がりながら、たった今来たばかりLINEを開く。

りこから、サボらないでちゃんと学校に行きなさいよという説教が届いていた。


「もー、俺のお母さんじゃあるまいし」


わざと困ったようにぼやく。
しかし、それでも玲の口元は綻んでいた。

自分に好意を持ってくれている存在は、大概が玲にとっては重荷だったが、不思議とりこの気持ちの重さだけは心地よい。

それが何を意味するか、自分の中でのりこの存在がどう変化してきているのか。

聡い玲は、答えをわかっていた。

だが、その答えと向き合うだけの強さがないため、見てみぬふりをしている。


(そういえば、りこさんを助けに入った結果、担任の教師が噛まれたんだっけ)


自分なら、もっとスマートに助けたのに、と思う気持ちが半分。

助けられたりこの気持ちが、その教師に傾かないかと焦る気持ちが半分。

噛まれた教師は男だと聞いた。
それに、りこが楽しそうにその男の話をするあたり、二人の仲が良いことは想像がつく。

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