ホルケウ~暗く甘い秘密~
爽やかな笑顔に、物怖じしない雰囲気は、普通なら好青年として受け止められる。

しかし相模は、発言内容が多少荒ぶっていたため、りこの思考回路は、一時期に詰まってしまった。

どこか遠い目で、「春山りこです。よろしく」とだけ答えれば、上原が憐れむような眼差しを送ってきた。

この展開が予想出来たから、上原は相模を止めようとしたのだろう。


「おはよう二人とも」


そこに、また新たな上原のグループのメンバーが現れた。

面長な顔立ちで、腰まである黒髪が少しぼさついている少女だ。


「おはよう、香織」

「おはよう、ゴリラ」


ゴリラと言った上原の脛を蹴り、香織と呼ばれた少女はりこを真正面から見つめた。


「春山さん、大変だったね」


憐れむようににっこりと笑う彼女だったが、白川町に引っ越してきてから数々の悪意に晒されてきたりこは、目敏く気づいていた。


(全然目が笑ってないんですけど……)


側にいる男子二人は鈍いのか、りこと香織と呼ばれた少女の間に流れる殺伐とした空気には微塵も気づいていない。


「顔、すごいことになってるね。痛そう」

「物凄い力で殴られたからね。今もちょっと痛いかな」


ざまあみろと言いたげな彼女の視線を受け流しても、他の女子たちの視線が飛んでくる。

特に、クラスでは少数派だが、ある意味石田や森田のファン以上に熱烈な、山崎ファンの女子からの視線はヤバい。

これでもかというほど、殺気がこもっている。


「なんであんな子助けたんだか」

「いい気味。ちょっと垢抜けてるからって調子に乗ってるからよ」

「ってか、よく平気な顔で学校来られるよね。神経図太くない?」


ヒソヒソと小声で交わされる噂話は、こちらまでしっかり聞こえてくる。

悪意に満ちた棘は、チクチクとりこの心を刺した。

決して名前は出さないが、彼女達が誰のことを言っているのかは、無遠慮な傍観者たちの視線でまるわかりだ。


「春山さん?」


そっと名前を呼ぶ上原に、りこは意思の強い眼を細め、苦笑いした。


「通り魔が逃げ続けているのが残念だわ。山崎先生に償わせることが出来ないもの」


りこに危害を加えた不審人物は、現場から逃走し、依然として捕まっていない、という設定である。

りこはその設定を、山崎ファンのクラスメートによく聞こえるように、少しばかり声を張り上げた。
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