ホルケウ~暗く甘い秘密~
人狼の少年の襲撃を受けてから2日が経った。
その日の朝、りこは教室に入った瞬間、にわかに室内の温度が下がったように錯覚した。
いつも以上に、女子からの視線が厳しいのだ。
(うわー……。刺さる刺さる)
なんとも言えない、居心地の悪い空間を打破したのは、やや場違いなほどのほほんとした上原の声である。
「おっはよー春山さん」
「おはよ」
「わあー、顔ヤバいね。変色してるじゃん。通り魔に襲われたんでしょ?」
心配そうに覗きこむ上原を、りこは一瞥し、当たり障りのない答えを返した。
「まあ、ね。本当にヤバいのは私じゃなくて、助けてくれた山崎先生なんだけどさ」
その山崎だが、今朝意識が戻ったとジェロニモから連絡があった。
それはつまり、山崎が人ではなくなったことを意味する。
ズシッと重くのし掛かる罪悪感を、りこは必死で呑み込んだ。
そんなりこを気遣うように、上原が声のトーンを落とす。
「山崎ってさ、なんだかんだ言って良い先生だから、春山さんを助けられて良かったって思ってるよ、きっと。だから、思いっきり感謝はしてもあんま落ち込むなよ」
なんて、無理な話だよなー、と困ったように笑う上原に、りこはつい微笑みが溢れた。
「ありがと。上原くん、良い人だね」
「なーに良い空気作っちゃってんの、お二人さん」
突如上原の背後からぬっと現れたのは、黒髪を短く刈り込んだ背の小さい少年だ。
よく上原と一緒にいる彼の名前までは覚えていないが、名字ならりこは覚えていた。
「相模くん、だっけ?」
りこに名前を呼ばれた彼は、弾けるような笑顔で返事をした。
「そーうでーす!よく俺の名前なんか覚えてたね!地味なのに」
「地味……?」
はっきりと響く声。キレのある口調。顔こそ普通ではあるものの、一度口を開いたら相模はかなり目立つ少年だ。
多分このクラスで、彼を地味だと思うものなどいない。少なくともりこはそう思っている。
「でも俺のほうは春山さんの名前覚えてないから改めて自己紹介」
こほん、と相模が咳払いするやいなや、ギョッとした顔の上原がなにか言おうとした。
が、それを突き破り、満面の笑みと朗々としたテノールボイスで、相模は自己紹介を始めた。
「相模浩司17歳!某コンドーム製造会社と同じ名字でーす!趣味は美少女観察!よろしく」