ホルケウ~暗く甘い秘密~
(なんだろう、さっきから胸騒ぎが止まらない……)
脂汗が流れ、動悸は激しく、目の前がチカチカする。
風邪でも引いたのかもしれない。
今日は夕食を作らずにすぐに寝よう。
高校のある高台から、ゆるやかだが長い坂を下りながら、りこは途中何回か立ち止まり足を休めた。
道が平坦になってきた辺りから、道路の下に川が通っている。
川辺で素振りをしている、どこかのユニフォームを着た少年の振るバットの音を聞きながら、りこはゆっくりと歩き続けた。
継続的に聞こえる素振りの音が、ピタリと止む。
あちらもそろそろ夕飯時なのだろう、とぼんやり考えていたりこの思考を裂くように、突如、川縁から悲鳴があがった。
「ぎゃあああああああああッ!!た、助けてええええええッ!」
胸騒ぎの正体は、これだった。
踵を返し、りこは悲鳴があがった方へ走った。
橋へ駆け寄り、下を覗くと―――――――――――
必死に抵抗する少年に馬乗りになり、その肩を前足で抑える一匹のオオカミ。
そして、辺りをキョロキョロと見回し、人が来ないように監視する二匹のオオカミがいた。
(どうしよう!助けなきゃ!でも、見つかったら私も襲われる)
ゆっくりと後退り、りこは橋から離れ、そして警察へ走った。
ここから警察まで、全力で走れば3分以内につく。
人の命がかかっているだけに、りこは具合が悪いのも忘れ、無我夢中で警察署を目指し、走った。
エントランスに入るなりバランスを崩して転んでしまうが、駆け寄ってりこを助け起こそうとした誰かに、りこは死に物狂いで叫ぶ。
「向こうの、高校へ行く途中の川辺で人が襲われています!3匹のオオカミに!」
オオカミ、その単語を聞いた途端、エントランスの空気は一瞬にして変わった。
「誰でも良い、急いで誰か向かわせろ!銃の携行を許可する!」
引っ張って立たせてもらい、りこはようやく自分が助けを求めた人の顔を見た。