ホルケウ~暗く甘い秘密~
(強姦事件……きっとこれが、湯山さんが私の家に出向けなかった原因だ)
オオカミ事件を別にしても、今の白川町は大変なことになっている。
それを強く実感したりこだが、廊下に鳴り響くケータイの着信音に、また空気が一変した。
「はい、もしもし……ええ、湯山です。生活安全課の。は?どういうことです?落ち着いてください、なにがあったのですか?…………至急こちらから何人か派遣します。捜索はそのまま続けるように」
「一体なしたんですか?(どうしたんですか?)係長」
状況が掴めずにいる部下らしき人の問いに、重苦しいため息を一つ吐き出し、湯山は答えた。
「有原君が病院から脱走した。看護師が、森の方向へ全力疾走する有原君を見たらしい」
「そんな、オオカミがいるかもしれないところに、なして!?(なぜ!?)」
「知るか!とにかく生安から、オオカミ事件に関わっているやつを全員町立病院へ派遣しろ!俺は交通課に協力を要請してくる!今すぐ動けば、森へ繋がるすべての高速と抜け道を封鎖出来るかもしれん」
走り出した二人に気づかれないよう、りこは息を潜め、気配を殺した。
そして、今日耳にしてしまった情報は忘れようと決意した。