ホルケウ~暗く甘い秘密~
目が覚めた時、真っ先に目に入ったのは、クリーム色の天井だった。
消毒のきつい匂いが鼻をつき、有原は思わず顔をしかめた。
首には包帯が巻かれていて、まだ少し頭がクラクラする。
それでも気合いを入れて、有原は肘をつきながら上体を起こした。
隣のおばあさんの食事の手助けをしていた看護師がそれに気づき、気分はどう?と問いかけてきた。
「俺、噛まれたのか……」
小さく言ったつもりだったが、有原の独白はしっかり看護師の耳に入っていた。
「生きていただけ奇跡よ。あなた、ここに運ばれた時には40度以上の高熱があって、みんな助からないかもしれないって思っていたんだから」
そう言いながら、その看護師は体温計を手渡し、有原の血圧を測った。
「今、昼みたいだけど……今日何曜日?」
「日曜日よ。念のため明日まで入院していてもらうから。オオカミに噛まれた時などんな菌が入り込んで熱が出たのか、調べたいの」
「もしまた誰か噛まれたら、何が原因かわかっていたほうがいいもんな」
この時有原は、強烈な違和感に襲われていた。
ゆっくり手当てなんかしてもらっている場合じゃない。
他にやるべきことがある……いや、やりたい事がある。
看護師が体温計を引き抜こうと、有原の肩に触れた瞬間、彼の頭の中で自然と、当たり前のように答えが算出された。
(犯したい…………誰でもいいから、女を)
看護師に手をのばしかけ、そこではた、と有原は目を見開いた。
自分は今、何を考えていたのか。
何をしようとしていたのか。
「顔洗ってくる」
えもいわれぬ恐怖に駆られ、有原は脱兎のごとく病室を飛び出し、共用の洗面所に駆け込んだ。
蛇口を勢い良く捻り、衣服が濡れるのもかまわず、豪快にバシャバシャと音をたてて洗顔し、それを五分ほど続けた。
(そろそろ落ち着いたか……?)
先程の、突然湧いた劣情は、今まで感じてきた、年頃の男特有のそれとは違うものだった。