ホルケウ~暗く甘い秘密~
りこが転校してきて、最初の試験がもうすぐそこまで迫っている。
生徒の大半は、教科書やノートを片手に昼休みを過ごしている。
あるいは、要領、頭の良い友人に泣きつき、ノートを見せてもらっている。
森下右京は、後者だった。
「りこちゃん、ノート借りていい?俺授業中寝ちゃっているから全然板書していなくてさ~」
「……どの教科?」
(相変わらず軽薄というか、チャラいっていうか……。ノートなんて他の子に借りたら良いでしょうよ。なんで私かなー。まず名前で呼ぶなっての)
ヘラヘラと笑いながら、彼は指を折って数え始めた。
「生物と、現代文と、地理と、化学だから……4教科?」
なぜ疑問形で終わる。
不自然な間といい、いろいろとツッコミたくてたまらないが、触らぬ神に祟りなし。
りこはあくまで無表情で、ノートを渡した。
「付箋貼ってあるところまでが範囲だから。メモは注釈」
「ありがとう。ところでさ、テスト終わった日の放課後時間ある?一緒にカラオケ行かない?」
親切心からノートの説明をしただけだが、なぜこうなったのか。
人生で初めてデートに誘われたものの、まったく動じることなく、りこは平淡に答えた。
「その日はもう先約があるから」
まさか断られるとは思っていなかったのか、森下は意外そうに眉をつり上げた。
それを見て、とてつもない疲労感に襲われるが、あからさまに顔にするのは、さすがに感じが悪い。
だからといって、今さら不自然な愛想笑いを貼り付けることも出来ず、りこは結局いつも通り無表情で昼休みまでやり過ごした。
そして昼休みが始まってすぐに、小銭入れを持って二階の自販機へ向かった。
久しぶりに森下を警戒したためか、食欲が無くなり購買まで行く気が失せた。
バンホーテンのココアを選び、誰もいない自販機の前に座り込む。
行儀が悪いが、一気にココアを飲み干し、りこは一息ついた。
ハァーッと長いため息をつく様は、まるで残業に追われながら疲れをもて余すサラリーマンのようだ。
それでも、廊下から足音が聞こえてきたらすぐに立ち上がるだけの元気はある。
そろそろ図書室に行こうと、自販機から離れたりこを誰かが背後から呼び止めた。
「春山!」