戦乙女と紅(ヴァルキリーとくれない)
俺の言葉に、乙女は一瞬驚いた表情を見せたが。

「…成程。剣を預けるに足る君主かどうか試したという訳か」

彼女は初めて、俺の目の前で柔らかな微笑を見せた。

…やはりこの娘は、笑顔が似合う。

その笑顔は派手さこそないものの、密やかに控えめに咲く、可憐な花のようだった。

「私も紅の自由騎士という二つ名は聞き及んでいる。二刀を以って戦場を駆け抜ける真紅の疾風…敵に回した者にとっては魔風らしいが」

「ならば話は早い。お前に遅れこそとったものの、大国の騎士どもには存分にその魔風、見せ付けてくれよう…どうだ?」

「……」

乙女はしばらく俺を真剣な表情で見つめた後。

「わかった」

馬上から降り、右手の篭手を外した。

「紅…私の復讐に手を貸せとは言わない。この国の民衆の為だけに、その疾風の身を戦場に晒してくれ」

「…心得た。報酬さえ貰えれば、幾らでも吹き散らしてやるさ」

俺は乙女の白い手を、しっかりと握り締めた。









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