噎び泣き

帰ってすぐに、
さっき買ったばかりの
アイシャドーを取り出した。

濃い目のブラウン。

きっとあたしには似合わないだろう。

少し買ったことを後悔しながら
机の上に放り投げた。

「あんた帰っとったん」

母の声にドキっとする。

「帰ってんのなら声くらいかけなさいよ」

「はーい…」

小さな声で返事すると
小さく「もう」と言った母が
机に目をやり、

「あんたこんなん買って。
こんな濃いのは似合えわへんよ。
お父さんもこんなん好きちゃうて。
だいたいこんなんかって…」

「お父さんの好みなんか聞いてへん!!」

「ああ…そう…」


これ見よがしに寂しそうに
母は台所へ行った。

あたしも階段をかけ上げ
自室へ入る。


ここで言うお父さんは
母の再婚相手。
義理の父に当たる人。


いい人なんだけど
最近なんか気まずい。

中学の頃から一緒に暮らしていて
当時はうまくやっていた。

嫌いなわけじゃない。

ただ少しずつ
自分の居場所が
確保できなくなってきていた。


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