ヤミ金

荒木と厄介な金融屋に行こうと約束した日、
私は、何を着ていくべきか悩んだ。

どうでもいい事のはずなのに妙に緊張していた。
実際に、その金融事務所には足を運んだことがない。
何度か、その金融屋の貸付担当者と言う男と喫茶店で会ったことがあるだけだった。

その男は、黒のダブルのスーツで、短く綺麗にカットされた髪型。メガネをかけていて、30代半ばほどのガッチリした男だった。
メガネをやたら、いじるのが癖なのか、メガネを外したとき、何度も、眉間にシワを寄せながら、私の顔を見た。

私は荒木と約束の時間15分前に待ち合わせの場所につく。

荒木は約束の時間ジャストに、いつもの白のベンツで待ち合わせ場所まで来た。

私は、ベンツに乗り込むと、荒木に金融屋の男から貰った名刺を渡し、荒木は、まず、その名刺に書かれた電話番号に電話を入れ、電話口に出た人と、話をしていた。

私は、その話を、ぼんやりと助手席で聞いている・・・

家を出る前からの緊張が止まらない。嫌だな。。早く帰りたい。

「おい。大丈夫か?」

荒木は、私の頭をポンと叩いた。

「怖い?」荒木は笑う。

「大丈夫。これで終わるんでしょ?」

「終わらせるよ。約束だもんな」

「じゃあ、それでいい。終わるなら、それでいいよ」

「それでいいの?その彼氏さんも、ついでに探しちゃう?」

「そんなことも出来るの?」

「やる気になれば、出来ちゃうかもよ?どうする?」

「・・・・・・」

探して欲しい。許せない。金返してくれ。私に土下座してくれ。

私は、そう思ったけど、言えなかった。

もし、それを言って、荒木が、どんな手口を使ってかは知らないけれど、もし、なんだかの手口を使って、彼氏を探したとして・・・

もし、それが自分の想像できないような方法で、しかも、もし、それが警察沙汰になるような事だったら・・・

そんな事を瞬時に考えたからだ。

荒木と言う男。この男への、不思議な安心感とはウラハラに、荒木の見えない素性に対しての、不安も少しあった。
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