失恋

新潟での暮らしは初夏からのスタートで、新しい仕事場は地元企業の事務員だった。良明の家からは車を走らせて30分程の場所。

良明には「知り合いが新潟に居て」と言う口実で、この街に来たと伝える。

新潟に来て知ったことだったが、良明の実家と言うのは地元でも有名な大きな老舗旅館だったのだ。スキー場に面していて、良明はそこの跡継ぎでもあった。

私が新潟に来た事で、良明は自分の地元の友達を呼び集め、よく私を誘い出してくれた。そして、この頃、電話で話をしてもキャッチに負けない仲間になっていた。

特別、良明との関係に大きな進展があったわけではないが、私は良明の仲のいい友達として新潟の暮らしを満喫する。

私は24歳になり冬を迎え、よく良明の家の前に面しているスキー場で良明とスキーを楽しんだ。

良明は子供の頃からスキーをやっていたので、私なんかでは、到底、同じペースで滑れる相手ではなかったけれど、私は良明と少しでも同じスピードで、シュプールを描きたくて、スキーを猛特訓したものだ。

何度も何度も良明の背中に追いつこうと、私はゲレンデの粉雪の上を滑り続けた。

ゲレンデで、彼を見失わないように。

彼に追いつくように。

そして仕事のない休日には、良明の家の前に面したスキー場の隣にあるスキー場でスキーのインストラクターのアルバイトも始める。

スキーシーズン中、良明が家の仕事の手伝いで忙しい時は、私は自分の所属するスキー場で、良明には内緒でスキーの練習をした。

恋は盲目とは誰が言った言葉なのだろう?

私は盲目だ。

良明に盲目になっていた。
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