「剛志さんにも新潟に遊びに行くよって連絡したんだ。鍋やるんだけどって言ったら一緒に行くって言うから誘っちゃった。いいかな?」

いいかな?と言われても、来てしまっている人に帰れとも言えるわけがない。

私は、「お疲れ様です」程度しか話をしたことがない、この剛志を自分の部屋に入れる抵抗はあったものの、好江と共通の他の友達の中には男も居たので、私は仕方なく、剛志も招き入れた。

剛志は、案の定、その場に居て楽しいのかどうかも、わからない感じで1人、ひたすら鍋を食べビールを飲んでいた。

私や好江、そして共通の友達は皆スキー好きが集まっていて、その中でも剛志は一番スキーの経験もあり、新潟のジュニアスキーチームのコーチをしていたこともあって、話題はスキーの話一色だった。

そんな空気に私は落ち着く事ができる。

数日前の、あの憎らしい思い出も、この、ひとときは忘れる事ができたからだ。


時計が夜11時を回り、皆そろってホロ酔いになった頃から、ぽつりぽつりと帰宅仕出す人を見送り、好江は、近くの宿を取ったと言うので、

「じゃあ、宿まで車で送ろうか?」と言うと

「あ、平気、剛志くんに送ってもらうから」と好江が笑った。

「じゃあ、気をつけてね」と私は剛志と好江を玄関まで見送り、「バイバイ、またね」と言ってドアを閉め玄関の鍵を掛けた。

皆を送りだし1人部屋に残り、散らかったテーブルを片付けていたら、足元に、ルイヴィトンの小銭入れを見つけたのだ。

「誰のだろう?」

そう思った瞬間、その持ち主が、何故か私の頭の中を過ぎる・・

たぶん、その持ち主は、これを取りに、数時間後に戻ってくるような気がしたのだ。

そして、1時間後、その小銭入れの持ち主は私の家を訪ねてきた。

ピンポーン・・・

「はい」

「ごめん、忘れ物をしちゃったみたいで」

私はドアを開ける。そこには剛志が立っていた。
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