僕らが大人になる理由
ふと、携帯をポッケにしまってから呟いた。
浮気と言ってすぐに思い浮かんだのは光流の顔だった。
俺はあの部族に成り下がってしまったのか…?
いや、違う。俺は静かにかぶりをふった。
俺は、真冬のことが好きなわけじゃない。
これは絶対に違うと言える。
だって俺には由梨絵がいる。
大切にしたいのは由梨絵だ。もし二人が同時に泣いてたとしたら、俺は真っ先に由梨絵のもとにいく。絶対にだ。
そうだ。あの行動にはそんなに特別な意味はない。
ただ、真冬が肩を震わせて泣いていたから。必死に、自分の思いを伝えようとして、自分の居場所をつくろうとしていたから。
なんだか、あれ以上見ていられなくて、伝わったからってことを、伝えたくて。
…そうだ。それ以上の理由はない。特別な感情もない。ただ一瞬、情めいたものがわいてしまっただけだ。
そうだ。あれはただの、情だ。
「紺ちゃん」
「どうしたんですか、怖い顔して」
「あのさあ…」
16時、夜の仕込みの時間にやってきた光流は、険しい表情をしていた。
いつもと違う様子の光流を不思議そうに見つめると、彼は「やっぱいい」と言って視線を逸らした。
そこまで言いかけられたら気になるが、光流はそれ以上なにも話す様子はなかったので、「そうですか」と言って仕事に戻ろうとした。
が、俺はいつのまにか光流の服を掴んでいた。
「えっ、なに!?」
「あの…浮気ってなんでしょうか」
「は!?」
「え」
「ななななんで俺に聞くんだよ知らねーよ」
「なんですかその古典的な噛み方」
「ちょ、俺のお気にのTシャツだからこれ、引っ張らないで!」
「……えい」
「やめてええええ」
「じゃあ答えて下さい」