僕らが大人になる理由



ふと、携帯をポッケにしまってから呟いた。

浮気と言ってすぐに思い浮かんだのは光流の顔だった。

俺はあの部族に成り下がってしまったのか…?


いや、違う。俺は静かにかぶりをふった。


俺は、真冬のことが好きなわけじゃない。

これは絶対に違うと言える。

だって俺には由梨絵がいる。

大切にしたいのは由梨絵だ。もし二人が同時に泣いてたとしたら、俺は真っ先に由梨絵のもとにいく。絶対にだ。

そうだ。あの行動にはそんなに特別な意味はない。

ただ、真冬が肩を震わせて泣いていたから。必死に、自分の思いを伝えようとして、自分の居場所をつくろうとしていたから。

なんだか、あれ以上見ていられなくて、伝わったからってことを、伝えたくて。

…そうだ。それ以上の理由はない。特別な感情もない。ただ一瞬、情めいたものがわいてしまっただけだ。





そうだ。あれはただの、情だ。





「紺ちゃん」

「どうしたんですか、怖い顔して」

「あのさあ…」


16時、夜の仕込みの時間にやってきた光流は、険しい表情をしていた。

いつもと違う様子の光流を不思議そうに見つめると、彼は「やっぱいい」と言って視線を逸らした。

そこまで言いかけられたら気になるが、光流はそれ以上なにも話す様子はなかったので、「そうですか」と言って仕事に戻ろうとした。

が、俺はいつのまにか光流の服を掴んでいた。


「えっ、なに!?」

「あの…浮気ってなんでしょうか」

「は!?」

「え」

「ななななんで俺に聞くんだよ知らねーよ」

「なんですかその古典的な噛み方」

「ちょ、俺のお気にのTシャツだからこれ、引っ張らないで!」

「……えい」

「やめてええええ」

「じゃあ答えて下さい」
< 103 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop