僕らが大人になる理由
光流は浮気という単語に明らかに過剰反応していた。
今更浮気という言葉に動揺するなんておかしい。
「う、浮気ってのは…」
「はい」
「……気持ちが浮つくことだ」
「………そのまんまですね」
「な、なに、紺ちゃん浮気でもされたの」
「違いますよ。光流はどんな思いで浮気してたのか気になって」
「ぐさーっ。いや俺もうそういうのやめたから!」
「どうだか」
鼻で笑ってダスターを絞っていると、光流は「本当だよ!」と少し声を荒げた。
でも確かに、最近光流がバイトの女の子に声をかけることはなくなった。休憩室ではしょっちゅう女の子から電話がかかってきていたのに、今はすべて無視している。
一体彼に何があったんだろう。何が彼をそうさせたのだろう。
「光流、最近何かありましたか?」
「えっ」
「女の子に絡まないし…真冬にさえちょっかいださないし…」
「ぶほっ」
「むしろ真冬を避けるみたいに…」
「さ、避けてねーし」
光流は慌てたように否定して、それから競歩で更衣室に向かった。
明らかに様子がおかしかった。
なんだかまるで、中学生が恋愛ごとでからかわれたときみたいな拗ね方だった。
図星さされて、照れ隠しに怒って逃げる。
「…………」
あ。なんだ。そうか。光流…。
光流は、真冬のことが好きなんだ。
そうか。知らなかった。
久々だな、こういうことに気付いてしまうこと。
そういや昨年あゆ姉に彼氏ができたってことに気付いたのも俺だけだったし、今も俺だけだ(さらっと確認したらあゆ姉もさらっと認めた)。
昔から人の気持ちの変化にだけは敏感で、自分のことにはめっぽう疎い。
この勘の良さを、もっと自分に生かせないもんだろうか。