僕らが大人になる理由
ねぇ、お母さん。あたし、バカだけど、勉強できないけど、あたしだってきっと、1つくらい良い所があるはずなんだよ。
きっと、誰かの役に立てるはずなんだよ。
だから、勝手にあたしの人生を負けだって決めつけないで。
勝手に、あたしが立派な大人になれないって、決めつけないで。
「本当は、親のコネで入れる大学だってあったんです。でも、あの家を出なくちゃ、ずっと子ども扱いされて生きていってしまうような、気がしてっ…。でもそれは嫌で、ちゃんと、自分の足で大人になりたくてっ…」
「……」
「20才過ぎたら親の会社で働くことになっています。だからそれまでは、自分一人の力で頑張りたいんです。お願いします。ここで、働かせてください…っ」
…震えている。指が、声が。
今でも覚えている。このお店の求人に、電話をかけた夜のこと。ボタンを押すときの、震えた指先。
あとで親が店長に電話して、何か言ったらしいけど、でも、このお店は、間違いなく自分で選んだ進路だった。自分で決めた道だった。
だから、頑張りたい。
あたし、ここで働きたい。
「…そうやって、自分の辛い話すれば、同情するとでも思いましたか」
「っ!」
「……あ、今ムッとしましたね」
「……え、あ」
ま、まずい。
ついムッとした表情になってしまった。
でも、あたし、同情してもらいたいとか、そんな思いで言ったんじゃないのに。
「図星さされたような表情したら、すぐ追い出そうと思ったけど」
「え」
「あんたはちゃんと、素直に反応してくれたから…」
「それは、つまり…」