僕らが大人になる理由
「紺君は、好きでもない人にでこちゅーできちゃうんですね。光流君と一緒だ」
「…すみません」
「…乙女の気持ちを弄ばないでください」
「…すみません」
「今度から気を付けてくださいよ…」
「…すみません」
―――赤くなった額を見たら、同情なのか、情なのか、体が勝手に動いてしまった。
感情を抑えきれずに行動するなんてこと、今までなかった。
それなのに一体なぜ?
ずっと、そのことを考えていた。
あのときどうして、真冬に触れたいって思った?
それは全部、ただの情?
「……真冬、俺のことを、…まだ好きですか?」
「え」
…他に誰もいない静かな店内。洗浄機から立ち上る蒸気。テーブルの上に逆さまになった椅子。お湯が吹きこぼれる、音がする。
突然ぽろっと口から出た言葉が、彼女の瞳をまん丸くさせた。
俺は、まさか自分の口からそんな質問が出るとは思わなくて、暫し呆然としてしまった。
「あ…、違」
カーッと、嘘みたいに顔が熱くなるのを感じた。
俺は口を手で隠して、すくっと立ち上がり、すぐにガスコンロの火を止めた。溢れだした湯が、シューシューと音を立てて蒸発していた。
「トイレ、行くから」
足にゴミ箱があたった。バランスを崩して手を着いた棚が揺れて、中のコップが倒れた。
「え、大丈夫ですか紺君、わっ!」
「ちょ、危なっ」
倒れたゴミ箱からあふれ出したゴミに躓いて、真冬がバランスを崩した。
咄嗟に崩れた彼女を胸で受け止めた。
頭一個分小さい真冬は、どこもかしこもふわふわしていた。
また顔に熱を感じて、俺はバッと勢いよく肩をつかみ真冬をはがした。
「ち、ちょっと待って、本当…」
「え、紺君っ」