僕らが大人になる理由
やっぱり俺の思い過ごしだったのか。ならよかった。
それに、今も真冬が俺のことを好きとは限らないし…。そう考えると、少し気持ちが楽になった。はずなのに、少しだけ寂しくも感じた。
「あ」
うどんがそろそろ茹る。
俺はうどんをざるにあげるため、真冬の近くにあるざるに手を伸ばした。
しかし真冬もそのざるを俺に渡そうと手を伸ばして、手が重なってしまった。
その瞬間、真冬がぱっと手を離した。ざるが、下に落ちた。
「あ、すみません…!」
「いいよ、俺がとります」
二人してしゃがんで、真冬の顔を見上げた瞬間、俺は息を呑んだ。
「っ…すみません」
…今にも触れたら火傷をしてしまいそうなくらいの、赤面。
俺は、なぜだかその顔を見た瞬間、やばい、と思った。
何がやばいのか、分からない。だけど、そう、思った。
赤面している真冬を見ていたら、胸が苦しくなった。とても、苦しくなった。
「…き、気にしないでくださいって、そんなん無理ですよ」
「え…」
「どうしてあたしが紺君を好きなことを知ってるのに、彼女いるのに、あんなことしたんですか」
「っ」
「め、めちゃくちゃ意識しちゃうじゃないですか…っ、どうしてくれるんですか、あたしはあの時、心臓が張り裂けそうだったんですけど」
カタカタと、震えている指先。顔を真っ赤にして怒る真冬。
真冬は怒っているのに、なぜだ。俺の心拍数は、上昇していた。
『もう気にしないでください。深い意味はないので』
ひどいことを、言った。本当に。
真冬がまだ俺のことを好いてくれているかもしれないのに、あんなことを言ってしまうなんて。
俺は今初めて、自分がした行動を強く責めた。