僕らが大人になる理由


児玉の話を適当に流していると、児玉はそれをぜんぶ鵜呑みにして『えー! そうだったんだー! 俺と一緒じゃん!』とはしゃいでいた。

児玉バイだったのか。知らなかった。


「名前は? なんて言うの?」

「…真冬。桜野真冬」

「え。真冬…?」

「え?」

「へえー、俺の知り合いにも真冬って名前の妹いる人いるよー。もしかして同一人物だったりして」

「…まじ?」

「うん。聡人って奴。たまたまディスカッションのグループ一緒になっただけだけど。てか今この授業受けてるよ?」

「え……」



そう言えば真冬が、そんなこと言ってたような…。

俺は広い講義室を見まわした。


「どこにいる?」

「ほら、あの一番前の席の。眼鏡の奴。オメガの時計つけてるやつ」

「時計じゃわかんねーよクズ」

「授業終わったら話しかけてみれば? 近くまで一緒に行ってやるよ」

「……さんきゅ」


講義が終わり、人ごみをかき分けて俺はその“聡人”を追いかけた。児玉と一緒に。

聡人は早足で追いつくのが大変だった。


「待って、聡人」

「……何か用ですか?」


振り向いたその人は、とても冷徹な表情をしていた。

これが真冬の兄という可能性は、かなり低く感じた。

だって、真冬と似ても似つかない。


「なんかコイツが、聡人と話したいんだって」

「……あ、急にごめん、俺法学部2年の吉良光流です」

「じゃあ、俺はこの辺で。またな光流ん」


次の授業がある児玉とわかれて、聡人と二人きりになった。

聡人は切れ長の瞳で俺をじっと見つめている。

時間をとらせないでくれ、と目が言ってる。
< 157 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop