僕らが大人になる理由
児玉の話を適当に流していると、児玉はそれをぜんぶ鵜呑みにして『えー! そうだったんだー! 俺と一緒じゃん!』とはしゃいでいた。
児玉バイだったのか。知らなかった。
「名前は? なんて言うの?」
「…真冬。桜野真冬」
「え。真冬…?」
「え?」
「へえー、俺の知り合いにも真冬って名前の妹いる人いるよー。もしかして同一人物だったりして」
「…まじ?」
「うん。聡人って奴。たまたまディスカッションのグループ一緒になっただけだけど。てか今この授業受けてるよ?」
「え……」
そう言えば真冬が、そんなこと言ってたような…。
俺は広い講義室を見まわした。
「どこにいる?」
「ほら、あの一番前の席の。眼鏡の奴。オメガの時計つけてるやつ」
「時計じゃわかんねーよクズ」
「授業終わったら話しかけてみれば? 近くまで一緒に行ってやるよ」
「……さんきゅ」
講義が終わり、人ごみをかき分けて俺はその“聡人”を追いかけた。児玉と一緒に。
聡人は早足で追いつくのが大変だった。
「待って、聡人」
「……何か用ですか?」
振り向いたその人は、とても冷徹な表情をしていた。
これが真冬の兄という可能性は、かなり低く感じた。
だって、真冬と似ても似つかない。
「なんかコイツが、聡人と話したいんだって」
「……あ、急にごめん、俺法学部2年の吉良光流です」
「じゃあ、俺はこの辺で。またな光流ん」
次の授業がある児玉とわかれて、聡人と二人きりになった。
聡人は切れ長の瞳で俺をじっと見つめている。
時間をとらせないでくれ、と目が言ってる。