僕らが大人になる理由



“意気地なし”



と、書かれていた。

…本当だ、あたしは、とても意気地なしだ。

兄に逆らう勇気も、自分の気持ちを素直に伝える勇気も、紺君の優しさを受け取る勇気も、持ち合わせていない。

勝手に悲劇のヒロインぶって、自分の過去に脅えているだけだ。

紺君が、あたしを拒絶するんじゃないかって、脅えているだけだ。


あたしは、19年間生きてきて、ちっとも大人になれていない。

ちっぽけで、臆病で、意気地なし。


「っ…紺君…ごめんね…っ」


……悔しい。

何してんだろう、あたし。

悔しい、悔しい、悔しい。


おかしいな。あたし、19歳って、もっと大人だと思っていた。

大人になることって、もっと輝かしいことだと思っていた。

誰かに守られる立場じゃなくて、誰かを守る立場にいるのだと、思っていた。


こんなちっぽけな手で、一体誰が守れるだろう。

自分のことすら守れていないのに、一体誰が守れるというのだろう。


悔しいよ、あたし。

大人になることが、こんなにも怖いだなんて。

自分を守ることが、こんなにも下手くそだったなんて。



――――でも、意気地なしなりに今、自分のことを投げ出してでも、守りたいと思ったんだよ。

紺君のことを。紺君の幸せを。


どうしたら証明できる?

どうしたら信じてもらえる?

どうしたらあなたを守れる?




この、ちっぽけな手で。



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