僕らが大人になる理由
…光流に、合わせる顔が無い。
今日で行くのは最後、なんて嘘をついて煽ってみる作戦にまで手を出してしまった。
きっとこのことを聞いたら光流は呆れるだろう。
これからどんな作戦に出ようか…。
どうやったら、真冬の心に俺の言葉は届くのだろうか。
考えれば考えるほど、自分に自信が無くなってくる。
「あ…」
気付いたら、駅前に辿り着いていた。
柔らかな白に近い黄色の光が、建物を包んでいる。
煉瓦で出来た駅だから、温かな光がとても馴染んでいた。
…光の一粒一粒が、人々の瞳の中できらめく。
消えては光ってを繰り返して、人々の心すら照らし出す。
俺は、立ち止まって、少し遠くからその様子を見ていた。
…綺麗だ。
そう、素直に思った。
そう言えば、養護施設でもクリスマスの日は小さな電飾をツリーに飾って、パーティーをした。
9、10歳くらいまで俺は、自分の親族と言うものを知らなかったし、由梨絵の家に引き取って貰うまでは、家族というものさえよく分かっていなかった。
来年俺は、二十歳になる。
成人、と言われる大きな境目。
大人として、ちゃんと区切りをつけられる年齢。
何だか不思議だ。
ずっと、はやく大人になりたいと思って生きてきたのに、いざその年に近づくと、一体自分が何を目指していたのか分からなくなる。
親にしてみれば子供はいくつになっても子供、らしいが、俺には本当の親はいない。
…小さな子供が母親と手をつないで駅から出てきた。
あの手はきっと温かく、子どもを“守ろう”という硬い意志で繋がれている。
…俺にもいつか、あんな風に“守ろう”と思える人ができるだろうか。
そう、ぼんやり思って、自分の手を見つめた。
…あどけない彼女の顔が、浮かんだ。