僕らが大人になる理由



「真冬……」


…呟いた瞬間、携帯が震えた。

きっと店長かお兄さんだろう。

そう思い、俺はすぐ携帯に出た。


「はい」


…しかし、返事はない。

不思議に思ってもう一度呼びかけた。


「もしもし?」

「……」

「どなたですか?」

『……真冬です』

「え」


俺は慌てて片手に持っていた荷物を下におろして、両手で携帯を持ち耳に当てた。


「真冬? どうしたんですか? いきなり」


心臓は、バクバクと鼓動をはやめた。


『紺君に…謝りたくて…』

「……何をですか?」

『色々と…謝りたくて…』

「色々って、なんですか?」


優しい言葉をかけたいはずなのに、出てこない。

駄目だ。分かっているのに。

暫しの沈黙が続いた。


「……俺は、真冬がいない間に、色々あって、由梨絵と別れました」

『え…』

「…本当に、色々あって…」

『色々って、なんですか?』

「………」


さっき自分が言ったことと同じように聞き返されて、俺は押し黙ってしまった。

…真冬も暫く同じように黙った後、動揺した声で口火を切った。


『あたし…とんでもないことを、言ってしまいました、今日、由梨絵ちゃんに……』

「え、由梨絵に会ったんですか?」

『はい…』

「なんて言ったんですか?」

『…………』

「真冬」


彼女の名前を、改めてちゃんと呼んだ。

鼻をすする音が聞こえた。

俺は、全神経を耳に集中させた。

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