僕らが大人になる理由

『…あたし、紺君のお父さんとのお話を聞いたとき、頭の中が真っ白になりました。それから、絶望が全身を襲ってきました』

「………」

『紺君に合わせる顔が無いって、本気で思いました』

「……うん」

『…あたしには、とても背負いきれない、償いきれない、重たすぎる過去だと、思ったから』

「……うん」

『紺君の過去が重たすぎて、逃げたくなりました…っ』

「………真冬…」

『正直、今もその気持ちは、残ってます…っ』


真冬の声がだんだんと掠れていく。

やっと、真冬の本当の想いが聞けた。

胸のどこかがぎゅっと掴まれたように、苦しくなった。



「…真冬、まず初めに言うけど、俺は真冬を恨んでいません」

『………』

「でもそれは、俺がもう少し大きい頃の出来事だったら、少し事情が変わっていたかもしれません」

『…うん』

「真冬の会社を恨んだかもしれない。真冬のことも、恨んだかもしれない」

『そうだと、思う…』

「でも俺は、そんな風に過去を恨んで、未来を潰したくはないんです」

『そんなの………嘘だよ、過去が消えない限り、恨みは完全には消えないです』

「……そうですね」

『きっと紺君も思い出すっ…、いつか、あたしといたらっ』

「…それが怖いのですか。重いと、感じるのですか」

『………』

「意気地なし」

『なっ』


俺の言葉に、真冬はカチンときた様子だった。

でも俺は構わず続けた。

言いたいこと、全部言ってやろうって、思った。


「そんな覚悟だったなら、俺に電話なんかかけてくるな!」

『だ、だって!』

「俺の過去が重いんでしょう? 受け止めきれないんでしょう? だったら俺の電話番号なんか消して、完全に俺から逃げて、重い過去を背負ってない男を探して、また好きになればいい」

『なっ…』

「この意気地なし」

『違うっ』

「何が?」

『違う、あたし…』

「……もう切りますよ」

『うるさい!! 今でも紺君が好きなんだ!!』
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