僕らが大人になる理由
そう言うと、真冬はポロポロと涙をこぼし始めた。
どのイルミネーションの光の粒より、綺麗だと、思った。
「本当にっ…?」
「うん」
「…本気にして、いいんですか…? その言葉」
「信じて」
「っ」
「俺を信じて、下さい…」
――――俺は真冬の幸せを、一番に願ってるよ。
たとえ、俺の言葉は届かなくても。拒絶されても。
何度だって、言ってやる。
どれだけ声が、枯れても。声にならなくなっても。
そう思っていたことが、やっと報われた。
やっと伝えられた。
世界一大切な君に。
世界一大切な言葉を。
噛みしめたら、がらにもなく涙が出そうになってしまった。
ロボットでも涙が出るんだね、と真冬が泣き笑いしながら言った。
俺は、真冬の両手を取って、その小さな手をギュッと包み込んでから、ゆっくり開いて、そっと指先にキスをした。
「こ、紺君、ま、周りに人が」
「ん?」
聞いてないふりをして、今度は唇にキスを落とした。
暗闇でもわかるくらい、真冬は赤面していた。
俺は笑って、頬に触れて、“顔熱いですよ”と茶化した。
それから、聞こえるか聞こえないかの声で、好きです、と呟いた。
順番が逆だと、怒られた。
俺はまた、笑った。笑ってから、ぎゅっと真冬の小さな手を握った。
世界が、まぶしかった。
イルミネーションの光の粒が、雪のように、キラキラと舞っているかのように感じた。
真冬といる世界は、とても輝いて見えた。
―――僕らが大人になる理由は、なんだろう。
…何だか不思議だ。
ずっと、はやく大人になりたいと思って生きてきたのに、いざその年に近づくと、一体自分が何を目指していたのか分からなくなる。
大人になろうとしていた理由が、分からなくなる。
なんのために強くなって、なんのために働いて、なんのために成長したいと願うのか。
気付いたら、“大人”と言われる年になってしまった。
正直、突然そんな区切りをつけられても、全く実感はわかない。不安もある。
けれど今、なんとなく、見えてきたことがある。
この、握っている小さな手を、絶対に離さないと誓える自信。決意。
君の手を軽々と包み込めるくらいには、成長した自分。