僕らが大人になる理由

―――その時、真冬が突然大声を出した。

俺は思わず携帯を耳から話した。


「…って、言ったんです。あたし、由梨絵ちゃんに……っ」


携帯を離したはずなのに、声がまだ近くで聞こえる。

不思議に思ってあたりを見回すと、目の前に、真冬がいた。


「え…」


―――どうして?

なんで?

頭の中がパニックになって、思考回路がまわらない。

真冬は、荷物をひとつも持っていなかった。

まさか、突然思い立ってここまで来たのか?

どうしてここが分かった?

由梨絵が、教えたのか…?


真冬の後ろでは、イルミネーションがチカチカと光っている。

混乱した状態のままの俺にかまわず、真冬は言葉をつづけた。


「もう遠慮なんかしないって、紺君が大切なんだって、あたし、ムキになってっ…」

「………」

「まだ覚悟できてないのに、気持ちだけでここまできちゃって…」

「………」

「意気地なしって、思われても、仕方ないんですけど、でも、紺君が好きっていう意地は、あるんだよ、本当だよっ…」


―――身ひとつでここまで来て、つっかえながら必死に訴える彼女が愛しくて、堪らず抱きしめた。

まわりに、人がたくさんいるのに。

イルミネーションで、照らされているのに。


真冬の体はとても小さくて、それがどうしよもなく俺を切なくさせた。

守ってあげたいって、心から思った。柄にもなく。



「真冬…、過去だのなんだの、理屈はもう、いいです」

「え…」

「いいんです、そんなの。真冬の言う通り、過去は消えないから」

「………」

「まだ不安だっていいんです。…そんなのいいんだ。ここまで来てくれただけで、俺は十分だよ」

「紺…くん…」

「後は俺がどうにかすることなんだから、もう真冬は何もしなくていい。俺の決意だけ、黙って受け止めて」

「決意…?」

「そう。真冬を幸せにする決意です」
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