僕らが大人になる理由
「確か桜野編集社の社長の娘さんなんだよねー」

「大手です!」

「うーん…、住み込みでバイト希望って…どういこと?」

「家を追い出されました」

「あー、分かった。それでキャリーバッグ持ってきてるのね。そして採用される気満々なのね」

「はい!雇ってください!」

「あのね、真冬ちゃん。雇うってそんなに簡単なことじゃないの。分かってる? これだから最近の若者は…」

「お母さんがこのお店の特集丸々1ページ組むって」

「君をずっと待っていたよ。ウェルカム。ささ、部屋はこっちだよー」


ぼそっとつぶやいた一言で、店長の態度がコロッと変わった。まさに君子豹変。

あたしは、言われるがままに店長のあとについて行った。


…ここは、地元では結構人気のある、食事処兼居酒屋みたいたお店…清水食堂だ。

住み込みでバイトをできる、と聞いたのでやってきた。

店長に言った通り、あたしは大学受験に失敗した。

8個も受けたのに、全落ち。

もちろん両親は失神しかけるほどショック状態に陥り、学校の先生にも怒られた。

そして、あなたには気合が足りないのよ、と怒られ、家を追い出され、今に至る。


「さ、着いたよ。ここが今日から君の部屋だ」

「わあっ、とっても狭いですね!」

「うん、とっても失礼だねー。もう慣れたけどね。はい、これ鍵」

「ありがとございます!」

「無くさないようにね」


店長は細い目をさらに細くして笑った。

無造作な動きの前髪だけど、襟足はスッキリしていて、斜めから見る顎のラインが綺麗で、どこか清廉な印象を与える人。

年は30代後半だろうか。
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