僕らが大人になる理由


「仕事のことは徐々に覚えてもらうから、とりあえず今日は荷物とか片付けちゃってね」

「あ、はい、分かりました」

「あ、あとね、住み込み仲間とも、仲良くしてあげてね」

「え」

「ちょっと気難しいけどねー。まあ、ファイティン!」

「あ、はいっ」



そういうと、店長は料理の仕込みに戻っていった。

一人取り残されたあたしは、恐る恐る鍵を鍵穴に差し込み、まわした。


「おじゃましま…す」


開けた瞬間、雨の日の教室の匂いがした。

湿った木の、しっとりとした香り。

歩くたびに傷んだ床は軋み、悲鳴を上げた。

ここは、誰も済まなくなった木造アパートを改築してつくったと言っていた。

1階は壁も全部なくして、完全に一室になってはいるが、二階はほとんどアパートのままで、何部屋かは店長の事務室になっている。


部屋は全てで2部屋で、1つは台所と繋がっている。

完全に傷みきった畳の上には、明らかにリメイクショップで買ったであろう洋風なテーブルが1つ置いてあった。


「み、ミスマッチ…」


食べ物で例えると、おはぎにワイン、みたいな。

とにかく、ミスマッチで落ち着かない部屋だった。

いや、でも、やるからにはやらなくては。

あたしにはもう、帰る場所がないんだから。


「はーっ、つっかれたー」


と、その時、いきなりドアが開いて、ここの店員らしき人が2人入ってきた。

一人は女性で、一人は男性。

二人は、すぐにあたしの存在に気づいた。
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