僕らが大人になる理由


「カフェで話してただけですよ」

二人の冷やかしを適当に流して、掃除を手伝った。

「話してただけ!? もしや帰りたくないオーラを彼女が出してたから付き合ってたとかそういう…」

「………」

「は!? 何!? 前々から思ってたけど本当めんどくせーなその女っ」

「由梨絵は…、昔から寂しがり屋だから」

「紺ちゃん、それじゃいつか身を滅ぼすぞ。確かに由梨絵ちゃんは美人だけどな」

「いや、でも、俺、分かってるんで、大丈夫です」

「ん? 何を?」

光流の質問に答えずに、俺はもくもくと掃除を続けた。

そうだ。いずれ全部わかる時が来る。俺はそれを待つのみ。


…由梨絵は、俺と違って思ったことがすぐに顔に出るし、泣いたり笑ったり、自分の気持ちを素直に表すことができる。

そういう所は自分に欠けているし、正直羨ましいとさえ思う。

由梨絵に限らず、光流も、あゆ姉も、…真冬も。



『柊人君のそういう大人な所が好きだよ』



…由梨絵。

それは違うよ。

俺は、大人なんかじゃない。


『お前って本当に大人だな』

『何か欲しいって思ったこと、あんの?』


あったかな。わからない。

でも、俺は大人じゃない。

ただ、人より感情表現が下手なだけ。


「……でさあ、真冬。いい加減出てこいよ。ゴミ捨て行ってて入るタイミング逃したのはわかるけどさあ」

「そうよ。真冬ちゃん。いらっしゃい」
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