僕らが大人になる理由
由梨絵は、いつも寂しがっているとき、俺の手に触れる。

身長167センチの彼女は、もっと小さく生まれたかったとか、女の子より大きな手がコンプレックスだとか、よくぼやいていた。

その度にそんなことはないよ、と慰めてきた。


「…どうしたんですか?」


由梨絵の手を握り返して言うと、彼女は気まずそうに目を伏せた。


「ねぇ、柊人君、今日帰ったら、電話していい?」

「うん。俺からかけます」

「…誕生日、柊人君が作ったごはん食べたい」

「いいですよ」

「…あんまり寂しくさせないで?」

「…努力します」

「柊人君は、あたしのだもん」


涙目になりながら俺の手を握る彼女。

女の子の新人が入るたびに、由梨絵は毎回こんな風に弱ってしまう。

俺の性格が原因で彼女を寂しがらせているんだと思うと、何だか胸が苦しくなった。


俺は、彼女が帰ると言うまで、ずっと手を握っていた。

気づくともう21時になっていた。

店を出てからも彼女は泣きそうな顔をしていたから、彼女の地元の駅まで行って、バス停まで一緒に歩いて見送った。

彼女は最後に、“柊人君のそういう大人な所が好きだよ”と言って、俺の腰に手を回した。



由梨絵を送ってから店に帰ると、時刻はもう閉店時間を過ぎていた。

裏口から店の様子を見てみると、そこにはあゆ姉と光流がいた。


「よっ、モテ男」

「あらあら、こんな遅くまで何してたのかしらねぇ…。あんなに可愛い真冬ちゃんに告白されておきながら…」

「野暮だなーあゆ姉」

「ふふ、漫画のネタにさせてもらいましょう…」


最近知った話だけど、あゆ姉は趣味で漫画を描いているらしい。

一度彼女の漫画を見せてもらったけれど、それはそれはものすごくエグいホラー漫画だった。

一体どうやって俺のことをネタにできるというのだろう。
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