僕らが大人になる理由
現在23時。こんな時間に外に出たことは、生まれて初めてだった。
バイトを始めてから、色んな新しいことを体験できて、なんか、すごくうれしい。
会計をすませたあたしは、少し小走りで公園に戻った。
すぐさま光流君に水を届けようとしたが、光流君はすでにバイト仲間(さっき買い物を依頼した女子大生の一人)の膝の上でつぶれてしまっていた。
あゆ姉も店長も完全に潰れてしまっている。
あ、あの人達って…本当に…。
「光流君寝顔かわいーっ」
「桜野さんに買い物行かせて良かったよねー」
「あはははっ、そろそろ帰ってくるんじゃない?」
「まあ、空気読んであっちのシート行くっしょ。ていうか最初から読め」
「あははっ」
…はい。空気読みまーす。
あたしは、水を持ったまま、気づかれないようにそっと彼女たちから離れた。
な、なんだよなんだよ!
ちょっと美人で派手系だからって!
言っとくけどそのメイクきつ過ぎてモテないと思いますよ!
なんて心の中で叫びながら、何とか2メートルくらい離れたときだった。
「ていうかさー、ぶっちゃけあの人仕事できなくない?」
「いまだにしょうもないミスばっかしてさー」
「あはっ、しょうもないとか! でも実際しょうもないよねあの人ー」
「普通にひどいからっ」
―――しょうもない。
その言葉だけが、胸に突き刺さった。
手から、ドサッと水が入ったペットボトルが落ちた。
あたしは、彼女たちの声をもうこれ以上聞きたくなくて、その場から去った。
「けほっ…」
大丈夫。落ち着け。あんなの、親族の嫌味に比べたらなんでもないじゃないか。
だから、大丈夫。落ち着け。
―――どうしようもない子。
「っ…けほ、けほ」