未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「何を“やっちゃった”んでしょうか?」


咄嗟にそう問えば、


「タイムスリップよ。しかも今回は珍しく、過去に……」


女性は訳の分からない事を言った。と言っても、もちろん“タイムスリップ”が何かは知っている。過去や未来へ時空を超えて行く事で、映画や小説でよく使われる架空の現象もしくは能力だ。

もちろん、現実にそんな事がある訳は無い。学生時代に習った物理の理論で、大掛かりな機械を使えば、あるいは未来へ行く事は可能かもしれないと思う。しかし過去へは理論上戻れるはずはなく、ましてや機械を使わずになんて有り得ない事だ。


突然現れたこの女性は、頭が変な人かもしれない。だとしたら、あまり刺激したり興奮させると危険であろう。そう判断した俺は、女性の話には適当に合わせておこうと考え、


「なるほど。ところであなたはどちら様でしょうか? 僕の事を知っているようですが」


と穏やかに聞いてみた。


「私は……だ、ダメよ。聞かないで。私、何も答えない」


ふうー。やはりこの女性は頭が少しおかしいらしい。突然他人の寝室に現れておきながら、名前も名乗らないとはどうしたものか……

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