Candy of Magic !! 【完】



ユラと話し込んでいると、突然ガラッと教室のドアが開かれた。一瞬にしてシーンと静まりかえる。

開けられたドアから現れたのは、白衣を着た背の高い若い男の人だった。


……その端正な顔立ちを目にしたとき、女子たちが急に色めき立った。




「キャーかっこいい!あの人が担任だよね?」

「そうでしょ!入学式のときから気にしてたんだ!」

「あ!そうか、確かに座ってたね。今は白衣着てるからわかんなかった」




ひそひそとそんな会話が聞こえてくる。

入学式のときにいたんだあの人。あのときは妖精に目がいってて気づかなかったな。


……げんに今も妖精に目がいってしまった。



彼の後ろから続けて教室に入って来たのは、かわいい小さなリス。やはり薄く透けていて青い色をしていた。

ちょろちょろと落ち着きなく先生の足元を駆け回っていたけど、何を思ったのかふいに先生の肩までかけ上がって身体を落ち着かせた。尻尾を先生の首に軽く巻き付けて鼻をひくひくさせながら目を閉じてしまった。


その先生の格好がどこぞのセレブかっていうぐらい様になってて思わず噴き出しそうになった。

だって、首にファー巻いてるみたいでおもしろいんだもん。白衣に豪華なファーがついてるなんておかしいでしょ。しかも違和感なく着こなしてるし。



……この先生はある意味目に毒だ。用心しないと。




先生は名簿みたいな冊子を教卓の上に置いてぐるりと私たちの顔を見回した。意外にもきりりと目筋が整っていたから、女子たちは興奮を悟られないように必死に平然を装っている。

ユラはもう前を向いていてその表情は見えないけど、ユラも多分必死になってると思うな。後で先生を見た感想を聞いてみよっと。


もちろん私の視線ともバッチリ合った。でもなんともなく先生の視線は私を過ぎると、ピクッと眉を潜ませた。

なんだろ?と思ったけど、先生の視線の先を見やって納得した。


……さっき話題にした例の彼が、まだ机に伏せっていて起きていないのだ。




「んー……そこの男子はヤト・ヨハンネだな?」



先生は名簿の冊子を開いて確認した。ありゃりゃ、目つけられちゃったよ。

でも彼は聞こえているのか聞こえていないのか、身動ぎをしただけだった。


先生は、はあ……とため息を吐いてまた名簿に視線を落とした。

先生顔細いなあ……とか思っていたら、急に私の名前を言われてビックリした。




「じゃあ、その隣のミク・カーチスさん。ヤト君を起こしてあげてくれない?」

「は、はい……」



なんでよりにもよって私なの?逆隣の男子にしてよって思ってふと見てみたら……ああ、なるほど。

寝ている彼の右隣にいた男子は緊張しているのか、挙動不審になっていた。目があちらこちらに泳いでいて気の毒に思うほど可哀想に見えてくる。

それならぶすっと隣に鎮座している私の方が声をかけやすい、と。


でも、返事したから仕方ない。



右腕を伸ばして彼の肩を揺らすと、ゴテッと彼の腕から頭が落ちて音をたてた。机におでこが当たってしまったのだ。皆の視線が集まる。

申し訳なく思ったけど仕方ない。起きていないのが悪いんだし。自業自得ってことで勘弁してください。


すると、彼がむくりと顔を上げた。大きく口を開けて欠伸をひとつ。

その能天気さに呆れた。まったく今の状況がわかっていないらしい。




「起きたか?」

「……すみませんでした」

「よろしい。今後気を付けなさい」

「はい」




お咎めはこれくらいですんだ。でもこんなことが長続きするようなら注意だけじゃすまされないんだろうな。


……またか。またなのか。



彼が素顔を改めて披露した瞬間、ユラの顔つきが変わった。というのは……まあ、担任が現れたときの反応。他の女子も同様に瞳をきらっきらとさせて彼を見た。

隣にいる私からは彼の顔がよくわからないけど、そういうことなんだろう。




「えーでは、早速だけど自己紹介から始めるか。まずは俺からな」



よく通る声で告げた後、先生は朗々と自己紹介をした。



「俺の名前はタク・スリザーク。歳は22。担当は見ての通り理科で使える魔法は水。皆はまだ魔法の使い方がわかっていないが、1組の水の魔法の授業を担当するのは俺だから、わからないことがあったら気兼ねなく俺に聞けよな。

では、首席番号順にいくぞー」



1番の男子から順々に流れて行き、注目を一身に浴びた彼の番になった。

彼は気だるそうに席から立ち上がる。



「俺の名前はヤト・ヨハンネ。基本ひとりなんでよろしく。詳しくはセンセーにでも聞いて」



……だけ。席につくとまた伏せってしまった。その内容の少なさに周りは呆然。もっと情報を入れてほしかった。

もっとこう……誕生日とか、扱える魔法の種類とか……あ、でも私も言えたもんじゃないや。あとは、家族とか出身はどこだとか。

今までの男子は最低それぐらいは言っていたのに、無愛想にもほどがある。


先生はまたため息を吐いた。




「ヤト君はね……家族がいない。孤児院から入学したんだ。当時も協調性がなくていつもひとりだったんだそうだ。だから、決して悪いやつじゃないから温かく見守ってやってほしい」




なるほど、親も兄弟もいないんだ。だから口数も少ないし大人びた印象があるし、言葉に刺がある。

でも、それは悪気があってしてることじゃない。私たちには家族がいるからよくわからないけど、きっと孤独っていうのは寂しいことなんだな。


彼の素っ気ない態度には、裏があったんだ。




「まあ、気を取り直して次の人」



先生は空気を変えようと目の前にいる女子にそう言った。

それからも順調に自己紹介は巡り、やっと終わった。

私は無難に家族構成と出身地、誕生日とよろしくねの一言で終わりにした。出身地を言ったときに、そこがここからは遠かったからひそひそと驚かれたけれど、特に言われなかったからほっとした。



自己紹介が終わったら今日の学校初日も終わり。今日は顔合わせだけにして、寮に戻って荷物を広げないといけないんだ。あとは教科書の配布とか生徒手帳の配布とか、明日からの生活の準備をしないといけない。

めんどくさいなーと思いながら、先生と別れた後寮へと皆でぞろぞろと足を進めた。




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