Candy of Magic !! 【完】

部屋と寮





「へえ、寮の部屋ってこんな感じなんだ」

「意外と広いね」




ユラと私の部屋は隣同士。出席番号が連番だから当たり前なんだけどね。


私たちはそれぞれの部屋を開けて廊下から中を覗いていた。中にはベッドと机、椅子、小さめの窓、鏡などなど。生活するのに必要な物は一式揃っているようだ。

私が一番気に入ったのはクローゼット。ブラウンのシックな感じで引き出しが二つとハンガーをかけられるところ。

しかもわりと大きめだから、女子にはありがたい。ベッドの下にも引き出しがあって大満足だ。




「うーん……でも階段からもトイレからも遠いから不便かなぁ」

「仕方ないよ。一年間ずっとここだし」

「そうだね。慣れるしかないか」




ここは5階の隅の方だから階段もトイレも少し遠い。寝坊すれば即刻アウトだろう。食堂も遠いから朝少し早めに起きて並ばないと授業に間に合わない。

というのも、ここは全て料理以外は自分たちでやらなければならないのだ。

掃除も洗濯もそうだし、誰も部屋まで来て起こしてくれない。普通に学校とは別の住居なのだ。甘く見ていては痛い目にあう。寝坊すれば容赦なく遅刻扱い。いくら校舎と隣接しているとはいえ規則は厳しい。

例え寝坊していなくても、朝ごはんを食べるのが遅くなって教室にチャイム前にたどり着けなければ遅刻は遅刻。



あとは……1ヶ月に一度散髪屋や呉服屋、文房具屋とかが来る。お金は1ヶ月に一度支給されて、1000円分。散髪は1回にきっかり1000円だからその金額はあまり余裕がない。

でもそれぐらいにしか使わないから意外と貯められるかも。散髪なんてしょっちゅうする必要はないし、いざとなれば自分でも切れる。私はショートだからその辺は大丈夫だ。

ユラは……ロングだから苦労するかもしれない。



私たちの部屋があるところは1組のエリア。1組の女子部屋がずらっと並んでいる。男子部屋は隣にある別棟にある。1階の食堂は同じなんだけど、ランドリーとお風呂、トイレと、2階より上は仕切られてる感じ。

だから、女子の生活を男子が覗きに来ることはない。そんな、勇者で命知らずな男子は恐らく先輩でもいないだろう。




「よーし、さっさと片付けないとね」

「まずは掃除かな」

「あそっか。人がいなくなってから少し経ってるし、その間も掃除はされてなかったんだったね。早くやらないと夕飯が混んじゃう」

「まだ3時だよ?」

「あと3時間しかないじゃん。しかも閉められちゃうのは7時半。急いで損はないよ」

「まあ……そうだね」




何をそんなに鼻息を荒くさせる理由があるのだろうと思うくらい、ユラは張り切っていた。

腕捲りをして部屋にかけてあったほうきを持ってサッサッと掃いている。




「ちゃんと窓開けなね」

「そっか換気もしなくちゃ。ありがとう!」

「いーえ」




他の女子たちも掃除を開始したため私も始める。窓を開けてからまずはベッドの下から引き出しを出して……と。


……あれ、なんかある。



私はベッドの下の奥の方にあった物をほうきで掻き出した。それは誰かの写真だった。

そこには、男女二人の学生が写っていた。兄妹なのかカップルなのか、男子は紺色のネクタイをしていて、女子は緑のリボンをしてにこにこと笑いながら並んで写っている。背景は大きな木の前。


……そして、鳥が二羽、二人の肩に止まって羽繕いをしていた。それは多分妖精の鳥。でも、おかしい。明らかにおかしい。

だって……


二人は両方とも、まるでその鳥を撫でているように片手はそれぞれ鳥の頭に添えられていた。そこにいる、と知っているかのように……

もしかして見えてるの?それとも偶然?


私は混乱しがらもユラの態度を思い出して掃除の手を進めた。写真は机の上に取り敢えず置いておく。

でも、なかなか青い鳥と赤い鳥の姿が頭から離れない。私以外にも見えてる人がいる……



妖精は、魔法の主。力の源。炎なら赤、水なら青、風なら緑、とそれぞれ色が染まっている。その姿は様々。動物が多いのはわかってる。

前は青いイルカが空を泳いでいてビックリした。水がないのにな、と唖然としたのをよく覚えている。しかもそれが初めて見た妖精だった。太陽の光を浴びて地面に身体から透けた影を落としていた。


私はそれを興奮しながら見ていたけど、誰も見向きもしない。それが不思議で不思議で堪らなかった。こんなにも摩訶不思議な現象が起こっているのになぜ誰も見ないのか、気づかないのか。

その後からは、妖精が見えるようになり日常に妖精という存在が飛び込んできた。そして、気づいた。


妖精は、魔法なんだと。


それに気づいたのは、ある大人が魔法を使っているところを見たときだった。例の風力発電で風を起こそうとしているとき、緑色のカンガルーがふっと消えたのだ。それまでその大人の近くをピョンピョンと跳ねていたのに、いきなりいなくなった。

そして、その直後に大人が風の魔法を使った。魔法が収まると、カンガルーがどこからか現れてさっきと同じようにピョンピョンと跳ねていた。



それで、妖精は魔法の源であり、皆には見えていないんだと理解した。それからは周りにあそこに何々がいる、といった虚言をしなくなった。兄には何度も変なことを言うな、と釘を刺されていたけど、やっとその理由がわかった。



皆には見えていない。これは私だけの秘密だ。



そして、今日もいつも通り窓の外では妖精が……緑のライオンが浮かんでいる。






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