Candy of Magic !! 【完】

体育祭




「凄いね……」

「うん……」



ユラの待ち望んでいた体育祭は、今日である。そして、その開催地はというと……部活の大会などに使われる競技場。そこにいくつかの学校が集まって、学校単位で競い合うのだ。

で、今は開会式に向けての整列中。名前の順で学年クラス別に並ぶ。我が校である聖ナヴィア魔法学園は青色。着ている服もハチマキもすべて青一色だ。

こうして並んでみると、生徒数に差があることが窺える。学校の名前を覚えていないのは謝るしかないけど、赤色の学校は倍近く生徒がいるし、緑色の学校は同じくらいでピンク色は私たちよりも少なめかな。

そして、一番存在感を放っているのが……黒一色の集団。学校名は……なんと聖エネラル魔法学園。通称エネ校。ちなみに我が校はナヴィ校だ。


なぜか一緒の体育祭参加となり、その動揺を隠せないでいる私たち。学園祭に来ることを知っている数人は尚更である。

まるでエネ校は波が押し寄せて来るような感覚に陥るほど、その風格はかなりの威圧感。噂が噂なだけに、彼らの勝利は見えている。


せっかく玉入れとか綱引きとかリレーとか……いろいろと練習してきたのに、全然敵わないような気がしてくる。まだ始まってもいないのに……


ユラの後ろに並んでいる私は、その空気に堪えられず靴ひもを結ぶためにしゃがむ。立ってられないくらい膝が笑い始めたのだ。このあとこの列のまま前に前進しないといけないと思うと気が滅入る。

一方、目の前にいるユラは落胆するどころか逆に闘志を燃やしていた。陸上部魂が暴れているのかもしれない。

ただでさえこんな広いところは初めてなのに、しかも1時間ぐらいかけて移動してきたのに……緊張しない方がおかしいよね?ユラが慣れてるだけだよね?

あ、移動っていうのはね、空飛ぶ船のことだよ。木製の小舟に別れて乗って、先生たちが風やらで押して移動するんだ。先生たちはどこかで休んでいると思う。ここに来るまでに皆ヘトヘトだったから。


立った瞬間胃がキリキリと痛み出す。これはヤバい兆候だ。早く収まってくれるといいんだけど。

それに……今日はいつにも増してマナが多い。マナたちも対立しているのか、たまにぶつかって威嚇していることもある。仲良くやってほしいけど、主の精神と繋がっているから仕方ないのかもしれない。


はあ……と無意識にため息を吐いていると、ついに合図の笛が鳴った。ゾロゾロと前進して、ひとつの台の前で止まる。その横には簡易式のテントがあって、学校ごとに先生たちが別れて座っていた。でも私からは人が多くてその様子は見えないけど。


何も喋らずただ立っていると、壇上に厳しそうな女の先生が立った。黒い服装だから、エネ校の先生なのだろう。


その先生は用意されていたマイクに向かって話し始めた。私たちの校長とはうって変わって、キーンという不快音は立たない程度の大きめな声だった。



「皆さん初めまして。私は聖エネラル魔法学園の校長である、クルエ・ネバンズです。以後、お見知りおきを。

さて、なぜ私たちエネ校が本日の体育祭に参加しているのかと言うと、他校の力量を計るためです。現在、学校が増えつつあり、その力は分散されつつあります。ともすると、やはり問題として上がってくるのは力の孤立化。その学校独自の教育方針が固まりすぎてしまい、外が見えなくなってしまうのです。あなたたち学生は知らないと思いますが、今、出身校によって若者の力量が偏ってしまっているという現実があります」



つまり、周りにはこの学校はバカな学校だ、と知られているのに、その学校自体はバカだと気づいていないということ。なぜかというと、周りの学校への関心が薄くバカなのに教育方針を変えないでいるから。

でも、あの校長先生が言っている力量って、頭脳だけじゃない。


魔法の力のことでもあるんだ。



「偏りが生じるということは、それは雇用にも影響を与えます。出身校のみで使えるか使えないかを判断されてしまうのは、あまりにも屈辱的ではありませんか?

しかし、あくまでも教育方針を無理強いすることをお勧めしているのではありません。その学校には生徒に見合った教育方針がありますから。すなわち、本日の体育祭を利用して、情報交換をしてもらいたいのです」



ふーん……つまり、自分の学校を自慢しに来たわけ?私は思うんだけど、『情報交換』って言葉には別の意味が含まれてるような気がするな。しかもいい意味じゃないねきっと。

たぶん……身の程を知れって意味。

自分の学校が、自分自身が、今どのぐらいの『力量』を持っているのかを確かめろって意味だと思う。満足のいくものならそれでよし、落ちこぼれているなら教育方針を変えたり今の日常を変えたりするのが得策なのだと校長先生は提示したんだ。


なんか、あの校長先生は好きになれそうにないな。言葉とは裏腹に見下してる部分がある。綺麗事を並べてはいるけど、捉えようによってはあまりにもたちが悪い。



「それでは、今日という日を楽しみましょう」



そう締め括って校長先生は壇上から降りて行った。あの揺れていたポニーテールを目障りに感じてしまうほど、私は沸々と怒りが込み上げてきていた。なんか、気に食わない。

私たちだって、一生懸命毎日を生きているんだ。そんなことで見下されてたまるか!学校だって先生だって、私たちに尽くしてくれる。

なのに、何も知らないのに情報だけで噂だけで判断されるなんてごめんだよ!


イライラを募らせていると、他の校長先生も自己紹介をし始めた。でもその内容は今の感情が邪魔して上手く聞こえない。それに、皆あの先生が怖くてでしゃばったことが言えないから覇気がない。だらしないな、と大人に対してだけど思ってしまう。

でも、自分の校長先生が壇上に上がったときは冷静になろうと心を鎮めてなるべく穏やかになれるように、目を閉じて耳を傾けた。

でも、先生の声はやっぱり大きくてキーンとマイクが鳴ってしまった。思わず目を開きかけたけど我慢する。



「皆!今日まで練習してきたことを忘れないでほしい!勝つことだけを考えるんだ!体力の温存だとか、あの学校は強そうだとかは考えないようにすること。いいね?

自分の学校を信じること。クラスメートや友達を応援すること。自分に自信を持つこと。それさえすれば、私たちは勝てる!以上!」



先生はあの体格に似合わず堂々と言ってのけた。どや顔してたのがチラッと見えたけど、肝心なことを言ってないのが気になる。まあ、あの校長先生らしいっちゃらしいんだけどね。

自分の学校とかって言ってたけど、感情が先走って大事な自分の学校の名前を言うのを完全に忘れている。これじゃあ校長先生の印象強すぎて私たちの学校名の知名度が上がらないじゃん。

でも、先生の熱意は伝わったよ。要するに、他の学校の生徒がどうであれ気にするなってことだよね。


思う存分暴れて来い!ってことだよね。


普段会わない校長先生に感謝をしつつ、足に力を入れる。自分に自信を持つ。私はそれを肝に命じた。



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