悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~



お辞儀を続ける久松に見送られながら
地下エントランスから、
桜瑛が来た時のみ使用している
一室へと向かう。




表向きは、桜瑛の為の部屋。




ただ実際は、桜瑛が来た時のみ
二人で使う
隠れ家みたいな存在だった。






「食事は?」

「食べてきたわよ」

「悪い、
 少し食べていいか?」






そのまま電話をかけると
食事と軽食が
すぐに部屋へと運び込まれる。




そこで食事を勧めながら、
逢えなかった時間を
埋めあうように情報を交換していった。




徳力と秋月の者としての情報交換。



そして……それぞれの
プライベートの話へと
会話は進んでいく。






「四月から
 香宮学院に行くよ」





そう切り出した俺の言葉に
桜瑛はびっくりしたように、
顔を向ける。




「飛翔が……昔、行ってたから。

 神前は申し分ない学校だよ。
 昂燿、海神、悧羅共に。
 
 だから徳力も学院の運営に
 援助は惜しむつもりはない。

 でも少し、
 外の世界にも触れてみたいんだ」




そう……飛翔が感じた
一族とは外の世界。



アイツが感じた外の時間を
計画したのは、
何よりも父さんだったから……。




「そっかっ……。

 でも悧羅校よりは、香宮の方が
 私も逢いに行きやすいわよね。

 なんて……姫様のことさえなければ、
 純粋に喜べたのに」



残念そうに呟く桜瑛。






久しぶりの逢瀬、
春休みの最後の日は
眠ることがないまま
夜明けと共に訪れた。





まだ明けきらぬ間に、
車を走らせて、
秋月の家へと送り届ける。





また今日から、
それぞれの時間が始まる。




次に二人が時を重ねる
その時まで。






「今日は有難う」



車を降りたアイツは、
来た時と同じように、
小走りで
秋月の門の中へと駆けて行った。




「久松……出してくれ」






そのまま眠い体を
後部座席に預けて、
揺られながら、
マンションへと戻っていった。
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