悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~


その直後、
俺が拾った『声』を忘れない。








『ご当主も贄として
 自らの命を捧げられた。


 宝(ほう)さまを頂きに抱くには、
 どれほどの血縁の血を
 欲せられるのだろうか』



『宝(ほう)さまはまだ幼い。


 この一族を背負うには、
 まだ若すぎる。


 せめて先代ご当主の弟君、
 飛翔様の居場所がわかれば……』









その時の(声)に寄って、
俺は飛翔の存在を知った。





その後、飛翔を語る
村の声は散々だった。







『先代の弟君はどうした?

 実の兄の葬儀にすら、
 顔を出さないのか?』

『先代の弟君は、
 一族を見捨てた』

『生神(いきがみ)の宿命に
 恐れをなして逃げ出した
 意気地なしなんだよ』





好き放題囁かれる
飛翔の影口は、
真実を知らぬ俺にとって
事実を見極めることなく、
忌み嫌う、
憎むべき対象として
根付いた。



父さんの死後、
当主の座についてからは、
後見の華月と共に、
公の世界に顔を出すようになった。



徳力の当主として。




右も左もわからぬままに。





口々に言葉では、
歓迎の言葉を紡ぐ者の
俺が感じ続けた(声)は
真逆の言葉ばかりだった。



徳力を乗っ取ろうと企む
負の感情。



押しつぶされそうになる心と、
襲い掛かる吐き気。


意識が薄れそうになる感覚。



人と接するのが
億劫になるほどの時間。




ただ逃げることも許されず、
心を閉じ込めることによって
全てを拒絶し
遮断することしか出来なかった。



人の世との接触を断つ時間。



機械的に求められるままに
生き続ける時間中で、
俺は秋月桜瑛と出逢った。




拒み続ける俺に
怯むことなく、
何時も関わり続ける桜瑛。



気が付いた時には、
隣に居るのが、
自然になってた。




億劫だった、家絡みの行事が
少し楽しく感じられるようになったのは、
その場所に行くと、桜瑛と逢えるから。


桜瑛は決まって、
俺が閉じこもる部屋へと
足を運んでくる。


それを手引きしていたのは、
華月だと知ったのは、
桜瑛の口から発せられた言葉。


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