悠久幻夢嵐(2)-朱鷺の章-Stay in the Rain~流れゆく日々~

そのまま久松に秋月まで飛んで桜瑛の迎えを依頼し
そのままゆっくりと呼吸を整えていく。




あの時みたいな、金色の雨を一瞬に降らすことが出来れば
この闇など簡単に晴らすことが出来るはずなのに。




思い通りにならぬ力は、
暴走する気配すら見せなかった。




その場で韻を組み指文字で古代文字を描く。



何度か経験のある小さな結界くらいならば
この屋敷一体を覆うことは出来るだろう。



屋敷から一つもその闇を出さぬために。
これ以上、犠牲者を出さないために。



生命力を吸い取られていくような
強い感覚が押し寄せる中、
その指文字を違えることなく描き続ける。




その文字を間違えることは、
術の失敗を意味する。



それだけは、
どうしても避けないといけない。



後ろに引っ張られそうな感覚。


時折、目の前が真っ暗になる感覚を感じながら
尚も描き続ける俺の元に、
小さな鈴の音色が静かに響き渡る。




「神威、遅くなってごめんなさい」




そう言うと、桜瑛は秋月の聖鈴を打ち鳴らしながら、
静かに悪気を浄化していった。



その鈴の音色は何処までも優しく慈愛に満ちる。



いつもよりも赤みがかる桜瑛の髪が
ふんわりと宙にたゆとった。




桜瑛の鈴の音を聞きながら、
俺はその場に崩れ落ちた。





崩れ落ちる間際、
朱鷺宮の気配を感じた。
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