悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

24.金色の雨 -神威-



輿に揺られながら、
最期の場所へと連れられていくのを感じながら
ボクはボクを呼ぶ声を聞いた。



『神威』



一族の中では、
もうアイツ以外は殆ど呼ぶことのない名前。



その途端、心が温かくなるのを感じた。


*

飛翔……。

*



輿の中からアイツの名を叫ぼうとした時、
輿の中に何かの香りが広がった。




その香りを嗅いだ時から、
頭の中がぼんやりとして混濁していく。




微睡だけの状態へと意識が映ると、
何処からともなく『お父様と、お母様がお待ちです。ご当主、海へとお還りなさい』と
何度も何度も繰り返し声が聞こえ始める。



遠くから聞こえるのは『神威』っとボクの名を呼ぶ
懐かしい声。




途端にボクは、今ボク自身が何処に居るのかがわからなくなった。



ただ脳内の声に支配されるように『海へ海へ』と意識が急かされる。




海へ海へと……意識が急かされ続ける中、
気が付いた時には、金色の雨が降り注いで
ボクは周囲の景色が見えるようになった。



ボクを取り囲んでいた膜のようなものが取り除かれて、
クリアになっていく意識。


クリアになっていく意識の中で、
父さんの声なのか、アイツの声なのかわからない
優しい声が染み渡った。





眼を閉じる間際……
黄金の龍の姿を見た気がした。








あれが……一族に伝わる御神体。
雷龍翁瑛なのかもしれない……。




その龍神を呼び込むように、強くその名を念じる。




するとその龍神は、二つに分かたれて
ボクとアイツの体の中に消えていった。




何とも言えない優しい気持ちに包まれる中、
ボクは意識を手放した。






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