悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence

7.不穏な音(こえ) -神威-


柊との修行。

一週間の学院生活を終えて週末、
ボクは再び飛翔の迎えで、山桜桃村へと向かった。


「宝さま、おいでなさいませ」


山桜桃村でボクを迎え入れる柊。
だけどまだ桜瑛の姿がなかった。


「柊、桜瑛は?」

「秋月の巫女は今週はおいでになりません」

「今週は来ない?
 桜瑛は何も言ってなかったぞ」

「さようでございますか?
 ですが柊の元にはそのように連絡が参りました」



少し拗ねたように納得がいかない心を押し殺して
ポケットの中から携帯電話を取り出す。

電話帳から桜瑛の番号を呼び出してコールボタンを押すものの
アイツは出る気配はなかった。


「神威?」

「もういいっ。
 飛翔、修業に入る」


八つ当たりするように飛翔に言い捨てて、ツカツカとボクは洞窟の中へと入っていく。


「飛翔、お前もやれ」


当初は一緒に修行をしていたものの、何時しか見学だけになったアイツに
声をかける。


アイツはやれやれっと言うような顔を浮かべて、
ボクの方に近づいてきた。


「ほらっ、やるぞ。神威」



柊に教えられた所作を辿るように、身を清める儀式の後
何度も何度も、指文字を描き続ける。




修行開始からもう少しで一ヶ月が過ぎようとした頃、
ボクはようやく、体内に宿る気を一点に集中させることが出来た。


耳を澄まし、自然の声を聞く。

自然と溶け込んで一体になるイメージをして、
体内を流れる気脈の流れを追いかけていく。


正直、今もボクが追いかけているものが柊が言う気脈かどうかなんて
わからない。


だけどその流れに意識を集中していくと、ボクの意識が集中しているところが
一際温かく感じるようになった。


多分、それが……気っと言う見えない力を一点に集中出来ている証なのかもしれない。
そんな風にも思えた。


一点に力を集中することは、とても体力を消耗する。


だけどその集中した力で、雷龍翁瑛の召喚の指文字を描いても目の前に何の変化も生じない。



「チクショー」


悔しさから弱音が零れる。




< 155 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop