悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence


「はいっ、安田」


嵩継さんが電話を取ったものの、その電話は
すぐに俺の方へと回される。



「早城、徳力さんから電話だ」


そうやって受話器を渡されると、電話の向こう
華月の声が聞こえた。



「飛翔、仕事の後でいいから神前にいらして。
 ご当主が桜塚神社で、倒れているところを柊佳殿が発見されて
 お連れくださったようなの。

 今から海神校に赴いて、関係者の方にもお詫びしてこないといけないし。

 真夜中に寮を抜け出されるなんて」


「仕事明けに顔を出す。
 華月、悪いが海神の方頼んだ」

「えぇ」

「無理すんなよ」



それだけ告げて電話を切りながら、
拳を作って、デスクに叩きつける。




「おいおいっ、どうした?
 また何かあったか?」

「すいません。
 仕事に戻ります」



その後も明け方まで、何台か続いた救急車の対応をして
その日の勤務を無事にやりおえる。


次に俺が顔を出すのは、午後からでいい。


その間に、少し顔を出すかっ。



9時頃、鷹宮を後にして神前へと車を走らせる。


神前の受付で、アイツの名前と身分証明を掲示して
VIP専用の建物の一室へと向かう。



「遅くなりました」


ドアを開けて中に入ると、柊が俺の方を見た。



「飛翔殿お疲れ様です。
 華月殿は、海神校からこちらへと向かっておられるようです」

「すいません。
 神威が世話になったようで」

「桜塚神社の結界が崩れたように思いましたので、
 慌てて駆けつけましたら、すでに宝さまが対応なされた後でございました。

 私が到着した時には、金色の雨が降り注いで一瞬にして
 全ての不浄を清められておりました。

 それ故、お疲れになられたのでしょう。
 伊舎堂先生は、大事【だいじ】ないと仰せでした。

 お目覚めになられましたら、退院も叶いましょう」

「そうでしたか」


アイツの傍に近寄って、眠り続けるアイツの手首をとって
バイタルを確認する。


バイタルを確認して、ようやくほっとする俺自身。


目覚めぬアイツの傍、鞄から取り出した本を読みながら
時間を過ごし続けた。


10時半を回った頃、華月と万葉が病室に到着する。



週末まで再び、学校を休むことを告げて、
このまま夏休みに突入することになった神威。



「それでは、私はこの場で」


華月と入れ違いにお辞儀をして病室を出ていく柊殿を見送って
万葉がゆっくりとノートパソコンを開いた。


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