悠久幻夢嵐(1)-雷の章-a rainy insilence
「おいっ神威っ。仕事中だ」
「知ってる。
だけど……もう時間がない」
悪い予感がする……。
押しつぶされそうな不安の方が大きすぎて、
呼吸が難しくなるボク。
「神威、とりあえず止まれ。
お前は深呼吸」
そう言うと飛翔は立ち止まって、白衣のポケットから
電話を取り出して何処かに連絡をしているみたいだった。
「神威、出掛けるんだろ。
このまま駐車場に向かっても鍵がない」
そう言うと飛翔は、ボクの肩をポンポンと叩いて
そのまま建物の方へと戻って行く。
再び姿を見せるまでの間、ボクにとっては凄く長い時間で。
何度か深呼吸を繰り返しながら、
建物の方を見つめ続ける。
白衣を脱いだ見慣れたアイツが、鞄を手にしてボクの方に近づくと
そのままアイツの隣を歩きながら、当たり前のようにアイツの車へと乗り込んだ。
「何処行くんだ?」
「譲原咲の母親の自宅」
告げながら住所を見せると、
飛翔はナビに入力してそのまま車を走らせた。
間に合って欲しい。
ボクの中に流れ込んでくる、
黒い意識に鬼が飲み込まれてしまう前に。
飛翔が運転する車は、ドンドンと加速してナビの案内と共に
目的地へと近づいていく。
「神威、目的地の近くまで来た。
住宅街だから後は探しながらだな」
そう言いながら飛翔が周囲に視線を向けながら、
車の速度を落として走らせる。
ふいに何かが歪んだような感覚が脳裏に広がって、
その場所の景色のような場所が浮かんでくる。
「公園…パン屋さん」
「公園?今、通過した。
パン屋……何か見えるな」
そう言いながら車を走らせる飛翔は、
パン屋さんらしくない民家で販売されているパンを見つける。
そうこうしている間に、見慣れた柊の車を見つけた。
「飛翔、あそこ。柊がいるっ!!
それにアイツだ」
陰に紛れるように動くアイツを視線の先で見つけると、
ボクは慌てて停まった途端の車から飛び出して
鬼の姿を見かけた通りへと走っていく。
ボクが駆けつけた時には、
先に到着していた柊が、蒼龍を召喚してその家の女の人を殺そうとしている
鬼の動きを止めている最中だった。
「間に合ったか。
おいっ、お前。
誰が勝手に暴走しろって言った?」
目的の家の中へとボクは上がり込むと、
水圧で飛ばされて地面に叩きつけられた鬼の胸倉を掴む。
ボク自身の感情が制御できずに、
ただ強く胸倉を掴み続けるボクに「やめろ、神威」っと
飛翔が言いながらボクを羽交い絞めにした。
握り拳を作って鬼を殴りたいと思った衝動。